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ライフワークとしての学びを考えます。

暗譜しないことで舞台に消しゴムを投げつけられる

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ピアノのソロは、例外を除いてほとんど暗譜が義務づけられています。
 
音大受験、音大の試験でもコンクールやオーディションにおいても、暗譜の場合がほとんどです。
 
リサイタルにおいては、巨匠リヒテルが譜面を置いて演奏したことから、最近では暗譜をしないピアニストもチラホラ増えていますが、まだ暗譜が主流となっています。
 
ピアノは、音が多いことと、30分以上の大曲が多いこともあり、暗譜は結構大変です。私の周囲でも「暗譜が怖いのでもうソロは弾かない」と言っている人が多いのです。
 
これは、年齢を重ねて物覚えが悪くなったから、とかいうレベルではなく、若くても関係なく言われていることです。ただでさえ緊張する舞台。譜面がないところで頭が真っ白になってしまったら、目も当てられません。
 
最近、ピアニスト7名で集まることがあったのですが、「演奏会の1~2週間前になると、舞台にあがってピアノの前に座ったのに何も出てこないという夢を見る」、と全員が口をそろえました。
私も、たまにこういう夢を見ることがあり、これは本当に怖い。夢から覚めると心の底からほっとします。
 
ピアノのレッスンは、聞いてみるとスパルタ式がまだ根強く残っていて、厳しい先生が多いようです。
私の先生は大変優秀な方で、しかも優しかったので幸運でした。
 
厳しくしすぎたからといって、全ての人が良くなるわけではなく、反発してしまい逆効果の例もたくさんあるのです。
 
ある伝説的な話しをご紹介します。普段のレッスンから先生との確執があったのだと思いますが、暗譜であるべき試験でわざと譜面を持って入ってきた生徒に対し、審査員で入っていたその方の先生が凄い勢いで消しゴムを投げつけました。生徒は、投げつけられたことで余計に火がつき、舞台ソデから譜面台を大きな音を立てて出して、そのまま持ってきた楽譜をドン!と置いて演奏した、という武勇伝も残っています。また、その演奏はなかなか素晴らしいものだったそうですが、アカデミックな場でそのようなことをすれば、当然結果は失格になります。しかし、先生が思わず消しゴムを投げつけるほど、譜面を見る、見ない、というのは、演奏家としては大きな問題なのです。
 
暗譜というのは、終わってみれば人間ですから多少のミスがあったとしても、ほとんどの方が一音たりとも間違いのないようにと思って舞台に立つものです。
これは演奏するものにとっては大変なプレッシャーになります。
 
しかし、暗譜し、身体で覚えたことで、豊かなイマジネーションがあふれる可能性も多く、苦労して暗譜する意味も大いにあります。また、聴衆として聴いていた場合、ビジュアル的にも、譜面を見ないで演奏していたほうが、良い雰囲気がするものです。
 
これからも、きっと暗譜はなくならないでしょう。暗譜も怖いけれど、じつは、暗譜しないで弾くことも意外に怖いものです。

そして、暗譜でなくても素晴らしい演奏は存在します。そういう場も少しずつでも認めていくべきなのかもしれませんね。

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