高い声を出すことばかりに気持ちがいっていませんか 高い声は重要ではない
声楽をやっていると「いかに高い声を出すか。」「どこまで出るか。」ということを重要視しているケースが多いように思えます。
女声の場合、この人はハイf(エフ=ファ)が出るね、とか、ハイG(ゲー=ソ)が出るね、とかにどうしても注目がいってしまいます。
高い音が出なければ、歌いたくても歌えない作品も多いですし、気持ちはものすごくよくわかります。
歌とは音域のない楽器で、演奏として使える音域は、よくて2オクターブです。コロラトゥーラソプラノという声は、もう少しありますが、びっくりするほどではありません。
器楽の人にしてみれば「音域が狭くて大変だね」と思えます。
歌う方は、身を削るようにして、いわば命がけになって出している高音。下手をすれば声楽家寿命を縮めかねないような難曲もある。
そこまでして出している高音に感動してほしい。
しかし、音楽にとって高い声だけが重要ではないのです。
ハイfにしてもハイGにしても、気にするのは専門家か、よほどのファンではないでしょうか。
高音の技巧は、一般的に、聴いている人にとって意外とピンとこないところがあったりします。
かくいう私も、声楽に関わる前はほとんど気にしていませんでした。何も分かっていなかったのですね。今になってみれば、素晴らしい高音に涙が出るほど感動してしまいます
では、何が大事なのか。
私は、節回しと息づかいの2つだと思います。
歌詞も大事ですが、「ヴォカリーズ」という母音だけで楽器のように歌う歌もありますので、やはり歌としてはこの2点と考えます。
上手な人は、どんな高音を持っていても、それをばかりが強調されることはなく、やはり節回しが素晴らしいのです。
そして息づかい。
息づかいはダイレクトにお客さんに伝わります。
息を使う楽器もすべて大事ではありますが、息というものはそれほど伝わりません。
息づかいが生々しく聴こえるのは歌ならではなのです。
例えば、音と音の跳躍でも、音ではなく息で跳躍する。その人間臭さと温かさ。
こういうものに感動するのではなかと思います。
技巧以上にもっと大事にしていきたいものがあるのですね。