天才、中田喜直が描く猟奇的な彼女は最後幸せになれるのか?
クラッシック音楽というと思い浮かぶのは、音楽室に飾ってあったベートーヴェンのようなイメージかもしれませんね。
ただ、他にもいろいろなアプローチの方法を持つ、面白い音楽もたくさんあるんですよ。
皆さんにはあまり馴染みがないかもしれないけれど、武満徹など、日本人にも個性的で天才的な作曲家がいます。
作曲家、中田喜直もその一人だと思います
「めだかの学校」や「夏の思い出」「ちいさい秋みつけた」などは良く知られていますが、それ以外にも、異常なまでに研ぎ澄まされた感性で書かれた芸術的な作品を数多く残しているのです。
それらの楽譜の殆どが、絶版であったり、受注生産であったりすることに、少し残念な思いをしているところです。
女声のために書かれた組曲、「魚とオレンジ」。
この作品を初めて勉強したときは驚きました。
音と「ことば」がキラキラと生きていて、眩しいほどの魅力を放っています。
複雑な女性の心理と一筋縄ではいかない本性を浮き彫りにして、大変な説得力に満ちていると思います。
例えば、憧れているだけの好きな男性に対する愛と憎しみを同居させている第3曲「あいつ」。
「私を挑発した・・・!」「だからころす。アイツ!」と物騒な言葉をセリフのように叫ぶところがあります。そして「でもそれはケッコンしたあとで」なのです。
聴いた後にゾーッとしてしてしまいます。
音楽だけではなく、女優がセリフを扱うように、言葉の演技力も必要なのですね。
今まで使ったこともないような感性を刺激される作品です。
他にも、コロラトゥーラソプラノの要素を持つ、華やかな第一曲「はなやぐ朝」、結婚前の様子をとぼけた表情で淡々と描く第6曲「ケッコン」、幻想的な最終曲「らくだの耳から(魚とオレンジ)」、など、中田喜直の才気がほとばしる名曲ばかりです。
自分にコンプレックスを持つごく普通の会社員の女性が主人公。
女性の可愛らしさと恐ろしさを、多少のユーモアをもって描いている詩人と作曲家は、彼女に温かい愛情を持っているように見えます。
最後は、主人公を幸せにしてあげているように思えます。
作品の前半は猟奇的な雰囲気を感じますが、組曲の最後まで歌ってみると、揺れ動くナイーブな女心を感じて、主人公に共感している自分がいるのです。
日本において、こういう素晴らしい作品が、あまり日の目を見ないのは、もどかしいような気持ちになります。楽譜も入手しやすくなってもらいたいし、もっと皆さんに演奏していただきたいですね。