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ライフワークとしての学びを考えます。

「オンチで何の音も分かっちゃいない」 それでも音楽でよい仕事をするには

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音楽に詳しいわけでもないのに、「良かった!」と言ってくださる方がいます。
しかも、良くないときはちゃんと「うーん、いいところもあったけど、ココとココ。気になるね」とか、分かったようにおっしゃる。それがまた大変的を得ていて、感心することがあります。
センスがよく、本物を見分ける見識がするどいのでしょう。クラッシックの名演奏などを紹介すると「これは素晴らしいね!」とすぐに反応なさいます。
 
指揮者の岩城宏之さんが、キングレコードと「合唱の歴史」というLP10枚近くの大仕事に取り組んだときのディレクターが長田暁二さんという方でした。長田さんとのことを著書「棒振りのカフェテラス」に書いていますので皆さんにご紹介いたします。
 
初仕事はオリヴィエ・メシアン作曲のサンク・ルシャン<五つの歌>。難曲中の難曲で、当時の日本レベルでは演奏不可能とされていた曲。岩城さんは、このたった12分の曲のレコーディングを、一日6時間を12回、合計72時間かけたいと申し入れました。それを長田さんは「ようガス、ヤリヤショウ」と二つ返事。
しかも、団員一人が風邪で声が出ず「今日の録音は止めます」と言っても「ようガス」。スタジオを6時間空白にするのは大変なこと。岩城さんは「芸術至上主義の神々しい使徒だと感動」します。

     ・・・・・(以下引用)・・・・・
 
ぼくは不思議に思うようになった。どうもこの人は、何の音も分かっちゃいないらしい。もしかしたらオンチらしいのだ。だが、演奏が上手く行った時に長田さんが出すOKは、実に、実に的確なのだった。スタジオの中の緊迫した空気が、演奏が本当にうまく行って、一瞬ホンワカとなごむ時がある。その瞬間を彼はキャッチするのだ。まさに動物的なカンだ。天才としか言いようがない。(中略)
ゲイジュツのゲの字も自身の感性にはなく、会えば、「ドーンとやりましょう」と人を神楽坂に連れていき、芸者をあげて、鉄道唱歌の”汽笛一声新橋をから、80何番まで全部大声で歌ってこちらを辟易とさせる。
 
     ・・・・・(以上引用)・・・・・

難曲のレコード化が成功し、その後キングレコードから流行歌の大ヒットを飛ばし続け会社は新ビルを建てるほどに。岩城さんと新しく録音したメシアンのピアノとオーケストラの4曲は、フランスでグランプリ・ディスク受賞します。
 
業界の人特有のカンも鋭いのだと思いますが、それだけでは、クラッシックの難曲まで網羅しながら、ここまで良い仕事はできないと思います。

長田さんは音楽の専門家ではないけれども、見届ける力のある人なのでしょう。
 
何も言わず、ただそこに佇む。それだけで、演奏家に良い演奏をさせてしまう。
 
それは魔法でもなんでもない。
真心を持って、見届けようとする。その姿勢があるからなのだと思います。

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