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「ヘーゲルの弁証法による螺旋的発展」 指揮者ブリュッヘンの18世紀オーケストラ

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私が、初めてフランス・ブリュッヘンと「18世紀オーケストラ」のことを知ったのは音楽高校時代のことです。
フラウト・トラヴェルソという古楽器のフルート奏者、有田正広先生の授業で紹介していただいたのがきっかけです。

「18世紀オーケストラ」は、古楽器という昔の楽器をそのまま使って演奏するオーケストラです。現代、皆さんが見ている楽器はほとんどが改良を重ねているモダン楽器といわれるものなのです。
ブリュッヘンは、現代屈指のブロック・フレーテ(昔の縦笛)奏者。しかしそれだけに飽き足らず、自分の私財をなげうって「18世紀オーケストラ」を設立しました。
そのくらいなものですから、ブリュッヘンの覚悟は生半可ではありません。
 
オーケストラのメンバー全員、ソリスト級古楽器の名手揃い。
常設ではなく、毎年数ヶ月の間集まり、リハーサルのあと演奏旅行に出るのです。 
 
ブリュッヘンは元々ブロック・フレーテの出身。指揮者としては決して器用な棒ではありません。しかし、その指揮に団員全員が共鳴し、導かれ、情熱的な演奏を繰り広げていました。
 
授業で流されたモーツァルト作曲、交響曲第40番や「ジュピター」の凄まじさ。ゴツゴツとリズムを刻み、くどいくらいに訴えかけるような、えぐりの効いた表現。嵐の調べが疾走する。
「真実はこれだ!」という叫びが聴こえてくるのです。
 
その演奏は、今まで私が思い描いていた優雅なモーツァルトとは全くかけ離れていました。
綺麗なだけのモーツァルトが、みるみるうちに虚飾が剥ぎ取られ、本来の姿を現してきたように感じました。
すごい!すごい!これこそ、本当の音楽だ!
授業中、手を握り締めて聴く高校生の私がいました。
 
古い楽器を使う、ということで楽器の能力が劣っているのではないか、パワーがないのではないか、などの心配は無用。
ブリュッヘンはそれを逆手にとって、現代楽器の表現力以上に説得力のある名演奏を成し遂げているのです。
 
このスタイルはまるで、へーゲルの螺旋的進化の法則を思わせます。

単なる復古主義ではありません。
物事の螺旋的発展。螺旋階段を一段ずつ登っているとき、上から見ると円を描いて元に戻って見えますが、横から見ると上の方に着実に登っているのです。
螺旋階段を登るように、古く懐かしいものがさらに洗練され、パワーアップし、暖かいものを内包しながら復活し、現代人の心を鷲掴みにする。
 
今日は、ブリュッヘンの指揮、「18世紀オーケストラ」の演奏でベートーヴェンの交響曲第8番1楽章を聴いてみることにしましょう。
 
ぎゅっと凝縮させた味の濃い音。金管を強奏させ、豪快なベートーヴェンの笑い声が聞こえてくるようです。しかし、音の色彩をニュアンス豊かに歌いあげて、聴いていると否が応でも精神が共鳴し高揚します。ただスピード感があるだけではない第4楽章も素晴らしい。聴いてみてください。

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