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ライフワークとしての学びを考えます。

作曲家の時代から技術者の手によって脈々と受け継がれてきた伝統が生きている音はいつまで続くのだろうか

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ある都内音楽ホールにおいて、演奏会のためのピアノを試弾に行きました。
 
スタインウェイのフルコンサートグランドが3台、ベーゼンドルファー(インペリアル)が1台。その中からどれかを選びます。
これだけ質の良い楽器を4台そろえているところは珍しいと思います。
コンサート当日の調律をお願いしている技術者と一緒に見に行きました。
 
24時間空調が完備された倉庫には名器がゾロリと並んでいます。
 
ピアノは管理がものを言う楽器。
さすがにどれもパーフェクトに近い状態で迷いましたが、結局3台あるスタインウェイ社のうちの1台を選びました。
 
スタインウェイの詳細は、黒1991年製、黒2001年製、木目1959年製の3台。
 
常に選ばれて弾かれているかどうかということも関係あり、その時の状態もあります。
長い間弾かれていないとやはり音が眠ってしまっているものです。
しかしその時点では、技術者も私も1991年製が文句なく素晴らしいと意見が一致しました。
 
技術者の話ですと、1991年と2001年では同じモデルでも少し中身が違うとのことでした。
外見でいうと、ペダル(ピアニストが足で踏むところ)ボックスに金のラインがあるほうが新しいものです。
 
最近のスタインウェイは、音楽のさらなる商業化に伴い2000人以上のホールに対応できるよう、より遠くまで音を響かせる華やかな響きを追求しているようです。そのため、鳴りは優れているのですが、1991年製と比較してしまうと、コクと深み、そして内面に向かう力がもう少し欲しいような気がしてしまうのです。
これも比較の問題で、他のホールでこの2001年があったら、私は迷いなくこれを選ぶと思います。
それほど1991年が良かったということです。このホールのピアノは数も質も都内でダントツだと思います。
 
しかし、古いほうの楽器がいいとは・・・。
 
技術者と試弾のあと話をしていたのですが、例えば160年の歴史あるドイツの名器ベヒシュタイン社にしても、作曲家でピアノの名手であるフランツ・リストや、フランス印象派のピアニズムを表現したクロード・ドビュッシーなどを直接のアドバイザーとしていました。
 
彼らは、自分の作品を表現する上でのピアノ、というものがイメージにあり、それに近づけるためのピアノ作りをサポートしていたのです。
またその逆もあったと思います。
技術者が作ってきたピアノから、さらなるインスピレーションを得て、新しい表現方法を見いだすこともあったのではないでしょうか。
 
特に、ドビュッシーの作品を1935年製ベヒシュタインで弾いたときは、今までの疑問がすっかりとけたような気持ちでした。
「ああ、確かにこの楽器でドビュッシーは作曲していたのだ・・・!」
 
ピアノが過去の作品を再現する芸術である限り、作曲家の声と楽器は切っても切れない関係にあると思います。
 
「ドイツでも、作曲家から脈々と紡いできた伝統を受け継いでいく職人が少なくなっているんですよね。」
 
最後のコーヒーを飲みほしながら、ドイツの工場から帰ってきた技術者の方がポツリと言っていたことばが印象に残りました。

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