音楽と経営 技術者と経営者 この二つの間にある深い溝
昨日は、スタインウェイのピアノが中国製になる時代が来るという話を書きました。
もう一つ、ドイツの歴史ある有名ピアノーメーカーB社は、ベルリンの工場をチェコスロバキアに移転しました。
不景気。リーマンショックによる追い討ち。
日本のみならず、ピアノは世界的に売れていません。
ついにB社のピアノ作りは、ベルリンではやっていけなくなったそうです。
チェコといっても、都心ではありません。
ベルリンはあらゆる世界的なアーティストが集まる芸術都市。
ピアノ作りは、アーティストと直接コミュニケーションがとれるような立地が大事なのです。
チェコへの異動を命じられた技術者たちは
「こんな田舎でピアノを作れるわけがないじゃないか」
と大きな抵抗感を示しました。
そんな技術者たちに対して、経営側は
「チェコの工場は良いところだよ。バスをチャーターして移転先の工場に皆でピクニックにいこう。」
と見学会を企画します。
そのピクニック。
だれ一人参加しませんでした。
昔からいる工場の責任者が
「"B社は今まで3度の危機を乗り越えてきた。だから、今回も大丈夫"
と皆に言い続けてきたけれども・・・・今回だけはダメみたい。」
と言っていたそうです。
B社の重鎮であるマイスターが中国へ引き抜かれ、その後、中心になっている技術者たちは次々と辞めてしまいました。智恵や技術を次の世代に誰が伝えていけばよいのでしょう。
今残っているマイスターの息のかかった技術者は、若い女性技術者一人だけだそうです。
できるだけ低価格で売れるピアノを作る。
そんなに売れなくてもいいから本物を作り、圧倒的なブランド価値を確立する。
ピアノにおいてこの二つはなかなか両立しないのです。
歴史的な巨匠たちに愛され続けてきたB社のピアノ。
このピアノの凄さは誰もが認めるものだと思います。
しかし今、このピアノの音色が変わりつつあるのを感じます。
中国で廉価版ピアノを作り始め、ピアノとしては売れているスタインウェイのエセックス。
確かにモノが売れないと会社は存続しません。
スタインウェイが廉価ピアノを出したり、バーゲンセールを行うことに対して、個人的には少なからず違和感を感じています。
最近は、魂を奪われるような「このピアノだったら破産してもいいから手に入れたい」と思わせるようなピアノの少なさを感じます。
あのホロヴィッツが使っていたような伝説ののスタインウェイは出てくるのでしょうか?
音楽と経営。
技術者と経営者。
両者の間にある深い溝を感じずにはいられません。
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