オルタナティブ・ブログ > 大人の成長研究所 >

ライフワークとしての学びを考えます。

「ああ、なぜ実力が発揮できないのか」 「アガらない方法ってあるの」 どうしても人前でアガってしまう人へ

»

巨匠スビャトスラフ・リヒテルは、超絶技巧のテクニック、ピアノが宇宙のように感じられる巨大なスケールの音楽、ピアニストである以前に芸術家、気難しく、完璧主義者ゆえ、コンサートのキャンセルも多く、超満員のお客さんが待っていても「今日はやめた」と言って帰ってしまうこともあるといいます。
しかし、長い間ソ連の鉄のカーテンに閉ざされており、謎である部分も多く、幻のピアニストとも言われていました。
 
指揮者の岩城宏之さん(1932年~2006年)が、1967年、まだ指揮者として若かりし頃、まだ謎の多かった時代のリヒテルとフランスでバルトークのコンチェルトを共演したときのことを著書「棒ふりのカフェテラス」に書いています。
 
指揮者との打ち合わせは、オーケストラパートのピアニストと共に、汗みどろで10時間の稽古。さらにリヒテルに呼び出され、幼稚園のボロアップライトピアノで二人きりの徹夜での稽古。
そして、コンチェルトの場合、通常3~4時間のオーケストラとの練習1回で本番となるところ、リヒテルは1回3時間の練習を9回要求。どの演奏もまるで音楽会のように100パーセントで行う。
今度は、本番会場の音響状態が良くないと言い出し「今晩はやらない」。しかし、何とかリヒテルのOKが出て演奏することに。

     ・・・・・(以下引用)・・・・・
 
楽屋で待っている間、誰かがぼくの部屋をノックした。ミネラルウォーターの小瓶を持ったリヒテルが入ってきた。入ってきたというよりは、よろけ込んで来た。あがってしまって歩けないと言ったほうがいい。ガタガタ震えていて手も氷のように冷たい。心細くてとても一人ではいられないからせめて本番までの数分間いっしょにいてくれと言うのだ。
いよいよ係りが呼びにきて、ステージに向かって、一緒に暗い廊下を歩いて行った。歩いて行ったなんてものではない。震えているリヒテルは歩けないのだ。あがっていないぼくがささえて歩かせることになる。
 
     ・・・・・(以上引用)・・・・・

そんなリヒテルの知られざる姿と人間味を知り、ますますその演奏の魅力を感じずにはいられませんでした。
 
巨匠レベルになれば余裕で演奏しているのかと思えば、そんなことはありません。
上に行けば行くほど、完璧を求められ、絶対に失敗は許されない立場。プレッシャーはどんどんきつくなってくるのです。
 
そして、才能があり創造性が豊かであればあるほど、理想の演奏のハードルは高くなっていきます
リヒテルほどの天才ならば、普通の人であればよしとするところも、絶対に満足はしないでしょう。
天才ならではの宿命ともいえると思います。
 
もし、人前でちっともアガらない楽な状態で演奏したければ、一つ方法があります。
 
「何も期待しないこと。イマジネーションのハードルを下げること。」
 
しかし、これでは成長しません。
 
ということは、やっぱりいつまでたっても楽にはならない、ということなんでしょうね。

Comment(0)