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「絶対音感がなければピアノは弾けないの?」

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楽器を習ったことがある方なら、絶対音感という言葉を耳にしたことがあると思います。 
一般的に、絶対音感とは、ある音を単独で聞いたときに、その音の高さと音名を即答できる感覚です。
音楽を聞いて、その場で楽譜におこしたり演奏したりすることもできます。
絶対音感は、3歳~5歳くらいまでに訓練すると身につきやすいと言われています。
 
特に、ピアノのように音符が多い楽器では、絶対音感があると、曲を練習すると同時に暗譜が出来、しかも音が頭の中に入っていれば反射的に鍵盤を打鍵できるので、技術的にとても有利なのです。
 
ピアノの巨匠、スビャトスラフ・リヒテルは、50歳後半で暗譜での演奏をやめてしまいました。
その大きな理由に耳の問題があったとされています。
 
リヒテルは、暗譜をやめたのと同時期、ひどい幻聴に悩まされており聴覚の障害が起きていました。音が一つ高く聞こえてくるようになっていたのです。

もともと絶対音感を持っていた人が一つ高く聞こえるとどうなるか。
例えば、イ短調がロ短調に聞こえるため、自然にト短調に移調して弾いてしまいそうになるというわけです。
つまり、「ラ」と弾いても「シ」と聞こえてしまうため、手は自然に「ソ」をおさえてしまうということですね。
こうなると頭が混乱してしまい演奏どころではありません。
 
また、スペインの名女流ピアニスト、アリシア・デ・ラローチャも60歳頃から、音が一つ高く聞こえるようになったと言います。
 
青柳いずみこさんの著書「ピアニストが見たピアニスト」に興味深いことが書かれていました。

     ・・・・・(以下引用)・・・・・
 
ラローチャは次のように答える。「(絶対音感を)以前は持っていましたね。残念ながら、年をとるにつれてだんだんなくなってきます。」(中略)
(リヒテルは譜面を見たが)しかしラローチャは、80歳で引退するまで20年間も暗譜で弾きとおした。(中略)ラローチャは、楽譜を暗譜するとき、まず指使いを書き込み、それをおぼえた。それから、いわゆる楽譜面をおぼえ、さらに分析して曲の構造をおぼえた。晩学で、幼児から基礎を叩き込まれていないリヒテルは、曲を目や耳でおぼえた。だから耳に頼れなくなったとき、楽譜を見る必要が生じたのではないだろうか。
 
     ・・・・・(以上引用)・・・・・

ピアニストに絶対音感があるということは、単に音が正確に聞こえるということだけでなく、技術的にも大事な要素だったのですね。
 
ただ、現代と違う昔のピッチで演奏する古楽などは、かえって絶対音感などないほうが都合が良いのです。
ピアノをしながらチェンバロも演奏するようになった知人などは、絶対音感があるため、最初のうちはずいぶん苦労したようです。
 
現代の楽器、特にピアノにおいては、絶対音感はある程度必要だとは思います。
けれどもそれがあるからと言って必ず良い演奏ができるとも限りません。
絶対音感は技術の一つだと思ってよいのではないでしょうか。
 
演奏するのは人間なのですから。感動するのは人間の心なのですから。

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