音楽は時間の芸術でもある 人の時間を使うことへの気づき
高校一年生のとき。
一年生のレッスンは先生の自宅で行うことになっていました。
私は、高校に入学してからピアノの指導者が大学の先生に変わったばかりで、一週間に一度のレッスンは大変な緊張の連続でした。
ある時、何かの点検のために電車が遅れ、レッスンに遅刻してしまったのです。
「電車が止まっていて遅くなりました。」と言い訳をしたのです。
すると先生は、
「遅れた?それで?」
と言ったきり黙ってこちらを見ています。
「5分あったらバッハが一曲弾ける」
と一言おっしゃいました。
これはまずいことをしたんだな、とすぐに感じ、「すみません・・・。」と謝りました。
しかし、それには答えずに「今日の曲は?」といつもどおりレッスンが始まったのです。
怒られたほうがまだ良かったかもしれません。
レッスン中は、「何がそんなに悪かったのか・・・自分のせいではないのに・・・」と、演奏に気持ちが入らないほどでした。
当時は本当に世間知らずで甘えていたのだと思います。
「先生は冷たい」と帰り道ずっとモヤモヤとした気持ちを引きずっていました。
その少し後に、学校の授業で指揮者の先生が
「この学校の創立者である齋藤先生は、オーケストラの練習で、チェリスト一人が弱音器を忘れてきただけで、その場で練習を打ち切ってしまったことがあるんだよ。『演奏会では通用しない、練習が本番に出る』ということだね。」と話してくださいました。
その時、理屈ぬきで、自分が大失敗をしたことに気がつきました。
これはもう絶対に遅刻できないな、と思いました。
それからは、電車3本早く出ることにし、駅前のファーストフード店でジュースを飲んでからレッスンに行くことに決めたのです。
これが私自身の高校生時代の気づきでした。
当時の先生は、学校の仕事以外にもたくさんの演奏会をこなしていて、忙しい毎日でした。少しでも時間があったらさらいたかったと思います。
私のために貴重な時間を使っているのです。
特に音楽は時間の芸術。
時間に対してルーズな感覚をもたないように、今でもこのときのことを思い出して気を引き締めるように心がけています。