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ピアノは調律師次第 巨匠リヒテルが信じた人

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ピアノの調律。
調律とはただ音を正しく調律するだけではないのです。同じ楽器でも調律師によってこんなに違うのか、と思うほど仕上がりが全く違います。
良い調律師が調律すると、その日の朝まで弾けなかったところが、本番で弾けるようになるくらいすごいものなのです。
 
「ピアニストで影響を受けていない者はいない」とまで言われているロシアのピアニスト、巨匠の中の巨匠、スビャトスラフ・リヒテル(1915年~1997年)。
 
リヒテルは、世界のスタインウェイでもなく、ベーゼンドルファーでもない、日本のメーカーであるヤマハのピアノをことのほか気に入っていました。
 
フランスの映像作家、モンサンジョンのドキュメンタリー・フィルム「リヒテル<謎>」の中で、リヒテルは「ピアノに求めるものは?」という質問に対してこのように答えています。
 
「ピアノで最も重要なこと?音が全てだ。」
 
「ヤマハはいい音が出る。極度のピアニシモで。」
 
「私は、調律師やスタッフを信じている。試し弾きなど必要ない。それは調律師の仕事だ。」
 
そのリヒテルが信じた人は、ヤマハ社員でもある日本人調律師、村上輝久さんでした。
 
村上さんは、楽器に対して極端にこだわる完璧主義者のピアニスト、ミケランジェリの専属調律師としてヨーロッパで活躍。その腕が買われ、リヒテルの他にケンプやギレリスなどの有名ピアニストの調律も手がけるようになった人です。それがきっかけでヤマハはヨーロッパでも有名になっていきました。
 
リヒテルは、ホールのピアノが良くないとコンサートを中止してしまうほど、妥協を許さない芸術家。
そして演奏前のピアニストは孤独で不安のかたまりです。ピアノを最高の状態に仕上げてくれる調律師がいるだけでどれだけ心強いことか。
演奏会のキャンセルも多く、政治的な理由で西側での演奏を制限されていたことから、気難しく近寄りがたいイメージの人だったリヒテル。
そんなリヒテルが心を許した数少ない人物が村上さんだったのです。
村上さんは「リヒテルは怖い人ではありませんでしたよ」と語っています。
 
2001年10月2日にNHKの番組、プロジェクトXで「リヒテルが愛した執念のピアノ」が放映されていました。
 
そのとき、浜松のヤマハ工場までわざわざ出掛けて、自分が弾くピアノを作ってくれている技術者の方々のためにコンサートを開いたという話が印象に残っています。
リヒテルの温かく繊細で優しい人柄が伝わってくるようでした。

素晴らしい演奏の後ろには、素晴らしい技術者と調律師がいることを忘れてはならないと思います。

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