ピアノ講座その3 「ピアニストへの夢」 シューマンのアベッグ変奏曲 作品1
昨日から引き続きピアノ講座の記事です。ショパンの練習曲集 作品10-1、10-5「黒鍵」について書きました。本日はシューマンのアベッグ変奏曲 作品1です。
各曲とも演奏してもらいながらの講座で、ちょっとした演奏会のようです。
「音が綺麗であったし、丁寧に弾かれていました。無意味な音がなく、これはこの音に属しててとか、このフレーズはここまでで、といった音楽の意味が分かりやすく、良い演奏だったと思います。」
「ショパンとシューマンの音楽性を比較すると、シューマンのほうが、ぐっとファンタジーにあふれ自由なんですね。これから時間をかけて磨きをかけようとするならそういうことを考えたほうが良いと思います。」
「これはシューマンの作品1ですね。晩年の方になってくるとシューマンは精神病になり音楽の様子が少しおかしくなってきました。音楽はもちろん明るくないし、音も少ない。それに比べると、この曲は規模は小さいけれど「交響的練習曲」とか「謝肉祭」」などと同じ時期の作品です。一応精神が正常で、若い頃はピアニスト志望だったのです。そういった意味でも音楽にもう少し勢いやしメリハリがあったら良いですね。」
「この曲、よく中学生とか弾くでしょう?上手に弾いた人を聴いたことがないですね。
このテーマは同じ音形からできています。中学生はここを『1何々、2何々、3何々・・・・』というように弾いてしまう。一番重要なのはこれを箇条書きにしてはいけないということなのです。フレーズにしてほしい。
フレーズのどこを一番強くしたらいいかをよく考えて。高いところから降りてきて、だんだん落ち着くのがオーソドックスなやり方ですね。
よくあるパターンは、2小節の一拍目の音と4小節の1拍目の音が同じ音量になってしまう。そうすると箇条書のように聴こえてしまいます。」
「9小節目では、あなたはきちんと弱く弾いていたのですけれど、オーケストレーションを考え、大胆に楽器を変えるような音色で弾いて欲しい。」
「テーマ右手のオクターブ、さっき弾いたときは指のレガートを全く使ってなかったですね。でも悪くは聴こえなかった。響きを耳の方で補い、つながって聴こえるように音色を作っていましたね。
腕のしなやかさは良いのだけれど、オクターブの上の音は5の指~4の指でつなぎ、1の指はなるべく近いところに移動するように、出来るだけ指でつないで弾いていくとよいですね。」
「第一変奏は、特にメリハリがついてほしいと思った箇所です。和音を一つ一つ解決しすぎないで、どんどん上に持っていく。この曲の中で唯一力強いところですね。このメリハリがもっと大胆にあってもよいですね。」
「第2変奏のシンコペーションは、音量はいらないのだけれどアジタートを表現していますね。感情が激しく揺れ動きます。ここは動きの音楽です。」
「第3変奏は、心はそれほど動かないけれど、指のための音楽です。シューマンは指を動かしたくてしょうがなくて、指を吊り上げて壊してしまったくらいなのです。左のバスを際立たせながら、右のパッセージはアウフタクトの細かいフレージングを出して弾くと生き生きとした表現になります。バスはそのフレージングが聴こえる音量にすると良いですね。」
シューマンはピアニストになりたくて、上がらない薬指を無理矢理上げるようなトレーニング機器を開発し、寝ているときでも薬指は上げっぱなしにしていました。その結果、指を壊してしまい、ピアニストの道を断念せざる得なかったのです。
作品1にしては早熟で、すでに完成された音楽性が感じられます。若いシューマンの夢や憧れが一杯につまった名曲ですね。
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