ミスがあったとき、先に進むのもテクニックの一つ
生徒が演奏会で弾くときに、必ずアドバイスすることがあります。
「もし本番で間違えても、そのまま行くように。そして弾き直さないで。弾き直したくなるかもしれないけど、我慢して。間違えたことを表情に出さずに続けてください」
演奏は人間の行うことですから、間違える可能性もあると思います。
そのとき、思わず『あっ』という顔をすると、音楽以外の表現が入ってしまい、内容が損なわれるのです。
音楽は時間の芸術。
演奏が始まったら、その流れを中断させてはいけません。
ミスがあっても、そのまま行ってしまえばちょっとした傷ですみますし、もしかしたら会場のほとんどの人が気がつかない場合だってあります。
止まってしまったり、やり直しをしてしまったりする方が、致命的なマイナスとなるのです。
「ミスはあったが、それ以上に音楽的な内容が素晴らしかったので気にならなかった」
演奏会の音楽評論を読むと、このようなコメントが良く目につきます。
だからといって、下手であって良いというわけではありません。
生演奏で本当に一つの曇りもないパーフェクトな演奏をするのはなかなか難しいことです。
本来上手であることは聴けばすぐに分かります。
ミスをしてしまったことは惜しいけれど仕方ありません。しかし、ミスを恐れるあまり、消極的な演奏になってしまうほうが良くないと考えます。
それより、思いきったのびのびとした演奏や、生演奏ならではのワクワクドキドキ感を味わいたいのです。
そうでなければ、家でCDを聴いていたほうが良いと思うくらいです。
2010/6/19私が指導を務める、合唱団コール・リバティストで、マエストロの小屋敷先生をお招きしての練習がありました。
小屋敷先生がプロの合唱団で歌っていた現役時代のお話をしてくださいました。
「隣で歌っていた先輩が大間違いをしたときです。指揮者の岩城宏之さんが、キッとその先輩の方を見ました。そのとき先輩は『何間違ってんだ!』という感じでボクを肘で押したんですね。そうしたら、岩城さんはすごく怖い顔をしてボクを指差しました。
どうも、ボクのせいになってしまったのですね。」
「良い勉強になりました。
人のせいにするぐらい図太くあれ、ということです。
舞台でオドオドしているのが見えてはダメですよ。間違っても知らんぷりしててください。」
最初のうちは、正しいことをしていても緊張などから堂々とできなかったりします。
しかし、アクシデントがあったとしても、そのまま振り切って行くことも演奏の技術の一つなのではないかとこの頃思います。