残響が音楽を創る
クラッシックの演奏会は、天井の高くて広い、良く響くホールで行います。
天然のリバーブというわけですね。
この響き、演奏家は「残響」と言い、ことのほか演奏と密接に関係します。
残響を上手に生かすことが良い演奏の条件です。
そのため、本番の前に必ずリハーサルを行い、自分の耳でホールの残響を確認します。
東京のサントリーホール、紀尾井ホールの残響は、満席時2.1秒あります。
世界で最も美しい響きを持つといわれているホール・・・ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでも使用される、ウィーン楽友協会ホールや、コンセルトヘボウとほぼ同じ数字となっています。
これはかなり響く方です。
響くホールと、そうでもないホールでは、演奏の仕方が違います。
響くホールの場合は、バイオリンだと弓を短く使い、音を短めに。
ピアノだとペダルを少なめに、メロディがボヤけないようにタッチを変えていきます。
逆に響かないホールの場合は上記の反対のことを行います。
その調整を行うため、演奏家にとってリハーサルは無くてはならないものです。
ルネサンス時代の音楽といえば、宗教音楽。
商業目的の演奏が行われていなかった時代ですから、ゆったりした客席があって、程よく美しく響くように設計されたホールはありませんでした。
教会の残響は大変長く、リンツにある聖フローリアン教会などは、残響7秒といわれています。
通常「良く響く」と言われているとろで2秒ですから、その残響の多さは半端なものではありません。
そういうところでの演奏はどのように行われていたのでしょうか。
普通に歌っていたのでは、前に出した音の響きでかき消され、全てがにごってしまい、ほとんど何をしているのか分からない状態になります。
特に、母音が続くところで、リズムが変化したときが難しいのです。
この場合は、母音を一度切って、言い直す歌い方をするそうです。
例えば、「マリア」という歌詞。
これを「マ~~リ~ア~」と歌うのではなくて、
「マ~ア,ア~リ~ア~」というように、母音を一度切って、リズムがはっきり分かるようにします。
残響の多い教会であみだされた技なんですね。
それが今では、ルネサンス音楽のスタイルとして定着し、教会でなくてもこのような歌い方をするようになりました。
作品が、どのような場所で産声をあげたかということは、演奏する上でとても大切なことなのです。