鋭利な舌を武器に独立する若者たち
昨日の記事でも書きました「FOODEX JAPAN 2010」。
S社5年ぶりの出展でしたが、5年前とはお客さんの様子がだいぶ違いました。
お客さんは、名札に名刺を入れているのですぐ分かるのですが、今回は飲食店経営者が圧倒的に多かったと思います。
「パン屋の開店準備のため塩を探している」「自分の作るラーメンのスープに合う塩がないか」「焼き鳥屋をやっているが、最後にふる塩ですぐ溶けないものを」「あっさりしたオードブルに使いたい」など、とても具体的に塩を探されています。
しかも、皆さん平均年齢がとても若いのです。
5年前は、40~50代男性で、スーツを着た商社や卸、メーカーの営業風の人が名刺を持って訪れていたのですが、今回は、今風の若者が、原宿あたりにいそうなカジュアルでやって来ます。
年齢も20代といったあたりでしょうか。
見かけは、腰パンに茶髪、ドレッドだったりするのですが、すごく真面目で熱心に質問してきます。
そして、もっと驚いたのは舌の敏感さ。
試食のやり方としては、まず最初に天日結晶の小さな塩の粒を飴のようになめてもらいます。
そこで反応のあった人に、石臼で挽いたタイプ、石釜で焼きしめたタイプ、と順に味見していくのです。
S社の塩の特徴としては、海水の成分が結晶の層を成したままなので、独特の味わいがあります。
料理の味を海のように包み込むやさしい塩味とでも言いましょうか。
そのため、口に放り込んだときの最初のアタックが柔らかいのです。
そして結晶の粒を舌の上で溶かしていくと、敏感な人は甘味と旨みさえ感じます。
もしかしたら料理人だから舌が敏感なのは当たり前なのかもしれませんが、口に入れたとたん「違う!」とすぐ反応し、甘みまで感じとってみせました。
40代、50代くらいになってくると、「なんかやさしい感じがするね」「普通の塩のとがった鋭さがないね」くらいまで分かる方は上級者。
甘み、さらに旨みまで言い当てる方はなかなかいませんでした。
近頃の若者が「味音痴」になっている、というのは良く耳にします。
しかし、一方で、とても鋭敏な「絶対音感」ならぬ「絶対味覚」を持っている方もいるのです。
バブルが崩壊してから、しかもここ10年くらいは、日本の食文化がかなり成熟してきたように感じています。
塩一つとっても、ただしょっぱければいいという塩ではありませんし、今やどこのフレンチでも「赤ワイン」といわれれば、ソムリエやサービスがついてワインリストから好みの味を選ぶことができます。
そういう時代に生まれた新しい味覚を持った若者が確かに存在します。
5年前と比較すると、自分の店を持とうという気概のある人が増えていました。
S社の社長さんも、そういう若者たちを応援してあげたいという想いからか、親切に対応していました。
ITバブルの頃は長者番付にのるような社長にあこがれて起業する方が多かったそうですが、現在は減少傾向にあるようです。
しかし今の世の中だからこそ、大きな組織に頼らずに、自分の腕一本でやっていこうとする若者が多いことを見て、日本の将来も面白くなりそうだと思えてきました。