ルネサンス時代の就職事情とは
私が指導を務める合唱団コール・リバティスト3月20日練習日記です。
この日はマエストロ小屋敷先生のご指導でした。
後期ルネサンス時代の曲、ビクトリア作曲「マリアよ畏れるな」を練習しています。
現代では女声が歌うように書いてあるところを、当時は男声が歌っていました。
教会の聖歌隊は男の人だけだったからです。
本来ソプラノを歌うカストラート(去勢された男性歌手)は現代にはもういません。
イメージするのは、ボーイ・ソプラノ、カウンター・テナー、テノール、バスの構成でしょうか?
だから女声が演奏するとちょっと音が違います。
女声の音域を男の人が歌うとき「ファルセット」という裏声を強化したテクニックを使うのですが、力強く輝きのある明るい音になるのです。
声のトーンがはっきりしているので、より宗教音楽に向いているともいえます。
例えば、米良美一さんの声、やっぱり女性とは違う独特の明るさがありますね。
女声はいつもの曲とは声の出し方を変えていって、宗教的な音に近づけることが目標です。
歌い方にはこの時代のスタイルがあり、それを学ぶことから始めます。
それには旋律を呼吸のように歌います。
「アルシスとテイシス」の繰り返しです。
「アルシス」とは上がっていく状態、「テイシス」とはアルシスがおさまっていく状態のことを言います。
今ある音楽の全ての息吹は「アルシスとテイシス」にあります。
祖先は男声だけで歌う、単旋律のグレゴリオ聖歌です。
それが受け継がれて音楽は発展していきました。
現代の曲のように、速さや強さや色や感情で表現するのではなく、アルシスとテイシス、音質のみで演奏します。
ルネサンス音楽の難しいところです。
音そのものから信仰があふれるような音楽を作り出すことが、信仰心のない私たちにとってそのイメージを理解するのはなかなか難しいかもしれません。
いつものように「音がとれた」ところで終わりではないのですね。
「マリアよ畏れるな」のビクトリアは教会の作曲家でした。
この時代の作曲家は教会が一番の就職先だったそうです。
作曲はもちろん、司祭であったり、指導者、聖歌隊の隊長であったりしました。
教会に就職すれば一生安泰。教会に就職できない作曲家は貧乏作曲家です。
同じ時代のモンテベルディ(1567~1643)は、最初は一般市民向けの、愛の歌などを作っていたのですが、やはり生きていけなくなりました。
一念発起し就活開始です。
今では宗教曲の最高傑作といわれている「聖母マリアの夕べの祈り」を作曲し、認められ、見事教会に就職できたそうです。
全曲通して3時間もかかる大曲です。
モンテベルディの力の入れようが分かります。
ルネサンス時代の就職事情も、現代とはまたちがって面白いですね。