「子供を連れてくるな」 寺島しのぶ 本当の凄さ
2月22日、女優の寺島しのぶさんがベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞しました。
寺島さんのお話しで印象に残っていることがあります。
「近松心中物語」をやっているとき、相手役の俳優さんが楽屋に子供を連れてきて、「これからこの人と心中するっていうのに何てデリカシーのない人」と激しく怒ったそうです。
寺島さんの演技は、芝居の中で役に没入し、もうこの場で死んでもいいというほどの燃えつき方をします。
実は、歌舞伎の女形は女ではなく男が演技するからこそ精神的に昇華されていると言います。
そして女形は、肩幅を狭く見せるために、背を低く見せるために、ご見物から見ることのできない衣装の下は凄まじい姿勢で踊っています。
芸に対する執念は女性をも凌ぎ、その透徹した気高さに心打たれるのです。
歌舞伎の家に生まれ、女性を演じるためには女性だけではだめだ、ということを、彼女は本能的に知っています。
この領域に近づこうとする、なりふりかまわぬ必死の姿が、寺島さんの演技に凄みを生み出しているのだと思います。
その辺の女性をウリにしているような女優は彼女にかないません。
以前、歌のレッスンに伴奏者としてついていったときのこと。
「あの子、卒業して勉強続けてくれることは嬉しいんだけど、レッスンに赤ちゃん連れてきてねぇ。途中でおっきな声で泣くのよぉ。赤ちゃんの声って声楽より響くわよ。ダメともいえないし・・・・。抱っこしながら歌ってもねぇ・・・。」
と、困ったように先生がおっしゃっていました。
個人レッスンは全て個人の責任だと思います。
ただ、教える方も受ける方も、集中力を必要とする演奏の場に子供がいた場合といなかった場合、どちらが良いレッスンになるでしょうか。
子供が泣いているところで、愛のために死ぬような歌を心から歌えるのかどうか。
個人ならまだいいのですが、合唱団となると、私は子連れ不可だと思っています。
高級レストランでは小さな子供連れは個室をとりますね。
周りのお客さんは、何かの記念日だったり、特別な会食であったり、夢の時間を味わいに来ているのです。
それと同じ理由です。
一人一人が貴重な時間を使って来ています。
良い練習になるように、全員が音楽に没頭できるように、環境作りは不可欠だと思います。
辛抱強く芸を磨き、今大輪の花を咲かせている寺島さん。
さらに10年後・・・どんな演技を見せてくれるのか楽しみです。