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ライフワークとしての学びを考えます。

自分を捨てられる人が上手くなる

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2月11日朝9時からお昼まで、私が指導を努めている合唱団、コール・リバティストで、男声の発声とアンサンブル・トレーニングがありました。
マエストロ小屋敷先生にいらしていただいてのご指導です。

合唱において、個人指導はとても贅沢なものです。
通常、プライベートで先生につこうと思ったら、とても高いレッスン料が発生してしまいますが、団で行う個人トレーニングは工夫しながら経済的負担が少ない仕組みで運営しています。

トレーニングでは、全員の前で一人ずつレッスンが行われました。

人のレッスンを聴くことは勉強になります。人が変わるのを聴くと、自分だけでは気がつかないことが不思議とよく見えるのです。

そして、人前で一人で歌うことは緊張もするし、気恥ずかさもあり、なかなか思うようにいかないかもしれません。
変な声になってしまうのを恐れて、消極的になってしまうかもしれません。

「歌はね、何も考ないで、バカになれなければいけませんよ。
スカンと簡単に自分を捨てられる人が上手くなります。」
と先生はおっしゃいます。

オペラ歌手は、超真面目な人格であっても、いくらモテなかったとしても、お金持ちで幸せだったとしても、健康優良児だったとしても、ヨーロッパ一女たらしのカサノバ、男を誘惑する魅力的な悪女、頭の悪い女中、貧乏な詩人、死の病を持つ高級娼婦、などになりきるのです。

発声は自分の殻を一枚ずつとっていくこと。
「こんなのは自分らしくない」とか「変な声を親に注意された」とか、いろいろな要因で声を作ってきてしまったものを取り除いていくのです。
人生が長ければ長いほど、その殻は増えていきます。

産まれたての赤ちゃんの声が一番素晴らしいのです。
幼稚園児の声は響きます。だから幼稚園のある場所は遠くからでも分かりますね。

だから「考えないで声を出して」なのです。

そういえば、音大時代一番はじけているのは声楽科の人たちだったような気がします。
なるほど、そういうことだったのですね。

声帯は皆一緒です。
バイオリンのように何億円もするストラディバリウスを使用できるわけでもありません。
声は、皆同じ声帯に息が通って発声されるだけ。
あとはこの声帯の使い方で差がつきます。

その一つのやり方として、「お腹を使う」ことを行いました。

お腹を使う、とはどういうことでしょう?

ゲラゲラと大笑いしているとき、どこが痛くなりますか?
お尻が痛くなることはないですね。
「お腹を抱えて笑う」などという言葉があるように、笑うときは無意識にインナーの腹筋を使っています。
歌はこの「笑うとき使うお腹」なのです。
腹式呼吸を難しく考えなくても、もうすでに自然と知っているはず。

「何も考えず、自分を捨ててバカになって、大笑いするときの身体」で歌うのです。

しかも楽器を買う必要もないし、歌って本当に素晴らしいですね!

全員、先生のご指導でとても上達していました。

後半は、ブスト作曲の宗教曲「パーテル・ノステル」を使ってアンサンブル稽古です。

発声を実際の歌に応用させることがなかなか出来ないのが歌の難しいところで、
ここからは真面目な練習が必要になってきます。

なぜなら、歌には言葉がつくからです。
言葉がつくと、とたんに難しくなります。

一見華やかな歌の舞台。
でも歌手は見えないところで想像もできないような努力をしているのです。
歌は、本当に何も考えない、では絶対にできません。
先生は最後に曲の稽古をなさったことで、きっとこのことをおっしゃりたかったのだと思います。

発声は単なる道具。
その道具を使って何を表現するか、というところからが本当の練習なのですね。

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