あなたは匿名加工情報が何かを知っていますか?
皆さんは、「匿名加工情報」をご存じだろうか。これは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報のこと。この匿名加工情報については、一定のルールを守れば本人の同意なしで、事業者間でのデータ取引などに利用できる。これはパーソナルデータの利活用を促進を目的として、個人情報保護法の改正により新たに導入されたもの。とはいえこの匿名加工情報については、一般消費者の認知が15.9%とかなり低い。
匿名加工情報について調査したのは、データサイエンティスト協会。これは2013年に設立し、新しい職種であるデータサイエンティストに必要なスキルや知識を定義し、育成のカリキュラム作成、評価制度の構築などを行っている。現在は普及のための活動に力を入れている。
その中で、事業会社の課題、知見、ノウハウを共有する場となるコミュニティ・ハブ委員会を立ち上げ活動をしている。ここでは事業会社の悩みを共有する場を作り、ビッグデータやAIに取り組めと上から言われ具体的にどうしたらいいのか。データサイエンティストチームを作りたいけれど、どういう組織作れば良いのか。さらにチームを作って活動を始めたいけれど、具体的にはどのように動けば良いかといったことを議論し情報共有している。
そういった話題の中で出てきたのが、匿名加工情報の話だったと言うのが、コミュニティ・ハブ委員会 委員長でSOMPOホールディングス株式会社 チーフ・データサイエンティストの中林紀彦氏だ。匿名加工情報は、特定の個人を識別できないように個人情報を適切に加工する。その上で安全管理措置をとり、公表義務、識別行為の禁止という4つを守れば、個人の承認なしに提供できる。2017年の個人情報保護法の改訂で定められたものだ。
企業では、個人を特定できるような情報をさまざまな施策で扱うのは難しい。なので、まずは顧客の傾向などを知るのに、匿名加工情報使いたいと考える。しかしながら、情報を使われる側は、匿名加工されていてもなんだか気持ちが悪い。営利目的でマネタイズが目的となればさらに利用が難しくなる。一方で、社会貢献的な目的であれば、使うことが許容されるだろうとの意見もある。このように、法制化されてもなかなか企業が利用しにくいのが匿名加工情報なのだ。
そこで匿名加工情報について、データサイエンティスト協会で現状を知るためにアンケートをとった。そもそも匿名加工情報について知っているかの質問には、内容まで知っているのが3.8%しかなかった。名称は知っていても内容までは知らなかったを合わせても15.9%しかないのが現状だ。つまりは知らないほうが圧倒的に多い。どう使うかの前に認知度があまりにも低いのだ。「これが一番の課題かもしれません」と中林氏。
知らなかった人に内容を説明した上で、匿名加工情報を使うことに賛成か反対かを問うと、過半数はどちらでもないと回答する。認知度が低すぎて、それを使って良いかどうかの判断ができないのだ。
とはいえ、健康社会の促進や自然災害時の活用など、公共の研究などを目的とした場合には、比較的利用しても良いとの回答が多い。特に自然災害時の活用に関しては、43.8%が利用に賛成した。
自然災害時の活用で、利用する情報はどこまでかを訊いたところ、性別、年齢、居住地(都道府県)までが90%以上、これが居住地が市町村レベルになると66%に落ちる。さらに郵便番号レベルの情報では35.8%とかなり低い。感覚的に都道府県はOKだが市町村より詳細になると「気持ちが悪い」と言うことだろう。
災害時の避難誘導などを考えれば、都道府県レベルでは情報として役に立たないだろう。より詳細なレベルで使っても問題がないことを、きちんとアピールし理解を深める必要がある。このあたりは、正確な情報がきちんと伝わっていないこと、さらにはそういった情報を利用することでどのようなメリットがあるかが分からないことが問題だ。そのあたりを如何に周知するのか。気持ち悪いという「感覚」が相手なので、かなり難しいところだ。
個人的には、公共の研究などであれば、匿名加工情報はどんどんどん使って欲しい。むしろ使うことでのメリットをアピールして、実はこれは匿名加工情報を活用した結果ですと、正当性の説明は後付けくらいでいいかと思う。
企業が利用する場合は、確かに難しい面もあるだろう。対企業となると「とにかく気持ちが悪い」となりがちだ。それに対しては、いかに使われる側にインセンティブを与えるかしか、許容される道はないかもしれない。
少なくとも、良い悪いではなく、匿名加工情報はこのようなものであり、こういうルールのもとに扱われれば個人を特定されることはないことを、もっと徹底的にアピールする必要はありそうだ。匿名加工情報はなんだか漢字の羅列で分かり難そうだが、分解すればそう難しいものではない。これを積極的に活用してメリットが出た話があれば、これからはどんどん記事などで紹介していく。匿名加工情報の認知度向上で自分にできることの第一歩は、それかなと思うところだ。