レガシーなIT企業は、かなり小さなクラウドのビジネスを、数年かけて大きく育てられるのか
先日ドコモと富士通がヘルスケア分野で協業をすることの発表があった。
「妊産婦がエコー画像をスマホで確認 母子健康手帳アプリ連携の「妊婦健診 結果参照サービス」――ドコモと富士通から」
ドコモの提供する母子手帳のスマートフォン・アプリと医療機関の電子カルテの情報を富士通のヘルスケア情報を扱うクラウド基盤を介して連携させるというものだ。
ドコモとしては、スマートフォンで通信をしてもらうことで対価を得るビジネスから、アプリケーションを介して付加価値を提供することで、ビジネス領域を拡大する取り組みだろう。ドコモではこの他にもヘルスケア関連のサービスを既に提供しており、それらの利用を「dアカウント」で一元的に管理できるようにしようとしている。dアカウントを軸にして、ドコモ領域に顧客を囲い込む戦略とも言えるだろう。
一方の富士通は、もともと電子カルテのシステムでは35%ほどと高い市場シェアがある。その優位性を生かしつつ、クラウド基盤にヘルスケア情報を安全に持ってくることで、新たな付加価値を提供して医療分野で別のビジネスチャンスを創造しようという取り組みだろう。既に他にもサンスターのIoT歯ブラシ、さらには歯科医院と組んだソリューションも提供を始めている。
今回の仕組みは、産婦人科などの産科医療機関に対し、富士通が販売する仕組みとなる。スマートフォンでアプリケーションを利用する妊産婦側では、費用は発生しない。アプリを使えば、これまで紙で提供されていたエコー画像などがスマートフォンからいつでも確認できるようになり、医師から個別のアドバイスなども受けられる仕組みとなるようだ。スマートフォン世代の妊産婦にはメリットは多そうだ。一方の産科医療機関は、ある意味競争のある医療機関だ。なんらか付加価値のあるサービスを提供することで妊産婦に来てもらう努力が必要だ。今回の取り組みはそのための施策の1つとであり、そのため産科医療機関が母子手帳アプリの利用にお金を払うことになる。
妊産婦などにとっては便利になり、医療機関もビジネスに付加価値を提供できるのであれば、Win-Winの関係となる取り組みと言えるのだろう。ちなみに医療機関が支払う費用は、月額3万円から(初期費用は別)。この金額で来てくれる妊産婦が増えるのであれば、医療機関も費用負担をするのだろう。
サービス提供側の富士通とドコモでは、医療機関から得られた対価をシェアするモデルで運用されることになる。当面のビジネス目標としては、今後5年間で600医療機関への導入を目指すとのこと。このビジネス規模で、大手2社のビジネスとしては十分なのかとちょっと心配になる。富士通的にはこの小さなビジネスをきっかけにして、医療情報を扱うクラウド基盤をさらに拡充してビジネスを拡大する絵を描いているのだとは思うところだが。
このようにクラウドのビジネスは、かなり小さなところから始めるものが多い。それに対して、かつてのメインフレームビジネスのように極めて大きな規模のビジネスを動かしてきた企業にとっては、数年という時間をかけて、小さく初めて大きくビジネスを育てることが本当にできるのか。クラウド時代のビジネス成長戦略は、なかなか既存の大手企業には難しいものがありそうだ。