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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

Chef Watsonはレシピのデータベースではない #IBMInterConnect

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 IBMのWatsonと言うと、クイズ番組で優勝したWatsonのイメージが強い。その他のWatsonというかコグニティブ・コンピューティングの適用領域としては、癌治療などの医療分野、旅行のプランやフライトの遅延にも柔軟に対応すると言った旅行関係の分野、あるいは富裕層の顧客向けの金融サービスの最適化なんてところで活用が始まっている。

 ユニークな適用領域としては、料理の世界がある。それが「Chef Watson」だ。利用する食材の情報や、逆にアレルギーなどで使いたくない食材の情報、日本食などの料理のジャンル、さらには誕生日などの特別なディナーであるといった、料理を作る際に人が思い浮かべることを情報としてChef Watsonに与える。そうすると、その情報からWatsonが考えて料理をアドバイスしてくれる。

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 InterConnect 2015のキーノートセッションには、イタリアンのシェフとして米国でTV出演や各種レシピ本の執筆なども行い有名なファービオ・ビビアーニ氏がステージに登場し、プロの料理人の目でChef Watsonを紹介した。

 ステージ上では、実際にChef Watsonでデモを行った。まずはメインのタンパク質になる材料を選ぶ。なぜか選んだのは魚のオヒョウ。米国ではオヒョウはポピュラーな魚なのか? ほかにはある香草や、アレルギーのある食材は使わないことを指定。さらに料理のジャンルとしてはモロッコ料理を指定した。

 それらの情報をもとに、Watsonが考えてレシピを提示してくれる。示される料理は、食材を組み合わせておいしいかどうかだけでなく、食材の化学組成的にその組み合わせがどういった効果があるのかといったことまで考慮されている。示されるレシピでは、材料だけでなく量も含め調理の仕方を提示してくれる。

 提示されるレシピの内容は、冒険的か安全かをスライドバーで調製できる。冒険側にスライドさせると、食材にはオレンジジュースなどのかなりチャレンジングなものが出てくる。逆に、安全側にするとジャガイモなど無難な食材が登場する。

 Chef Watsonから提示されるレシピは、指定した条件に合ったものをデータベースの中から見つけてくるものではない。条件なりを見て、Watsonが考えて回答するのだ。なので、なぜそのレシピになったかの理由も分かる。Chef Watsonは、まさに内部でさまざまな思考をしているのだ。なのでダイエットメニューであるとか記念日の大事な料理とかも「考えて」くれる。

 このChef Watsonはまだベータ版。現在は利用した人によるフィードバックで、より賢いChefになるよう修行をしている状態か。実際に調理師学校とも協業しており、すでにChef Watsonから生まれたレシピの書籍も出ている。

 Chef Watsonのように、料理という評価が1つに絞り込まれるわけではないものをコンピュータに考えさせるのは難しそうだ。とはいえ、人間の世界は、比較的この料理のように曖昧なものを含んでいる。ある人には評価されても、ある人からは嫌われるかもしれない。風邪を引いているとき、疲れているとき、気持ちが落ち込んでいるときで、料理を食べた印象は変わる。将来的にはそんな人の日常的な状況、条件などに指定したものの背景なども認知できないと、ユーザーが気に入る料理はアドバイスできないだろう。

 そう考えると、いかに学習させるかは重要だ。さらに、答えがうまく見つからないときに、Watsonのほうでユーザーに適切な質問を投げかけてその人の背景を探るという仕組みもいるはずだ。まさに会話するコンピュータ、会話しながらもっとも確からしい答えを考え出すと。そこまでたどり着けば、かなりWatsonは信頼でき、人にとっても身近な存在になるのかもしれない。

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