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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

これからのSaaS提供者の本命はITベンダーではないなという話

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 ここのところ、クラウドの本命はSaaSだという話しを続けて取り上げてきたが、そのSaaSを提供するベンダーはITベンダーではないなと思う発表があった。

 今日、各種建築資材を提供するLIXILのグループ会社K-engineが建築分野のSaaSサービス提供の発表を行った。このサービスは、新築のための家の図面データをクラウドにアップロードすると、自動で見積もりや工程表を瞬時に作成するというもの。LIXILというバックエンドのコンテンツというか建築ソリューションがあるからこそ実現できたクラウドサービスであり、このサービスの構築にはLIXIL社内で3年ほどの時間をかけているそうだ。その成果を自社のサービスとしてではなく独立したK-engineという会社を新たに興し展開する。

 今回のSaaSでは家1棟分の建材、工事項目について約3,500の3次元データに分解し、これを使って図面からすぐに見積もりが作成できるようにした。自由設計にも対応できるよう300万レコードの建築データベースも持っている。これにより、JW CADで作成した図面データをアップロードすれば、わずか数分で原価積算、施主用の見積もり、工程表などをアウトプットできるのだ。ちなみに、これは1ユーザー月額5,000円から利用できる。

 通常、プランから設計し見積もりを出すのに1週間ほどの時間がかかるそうだ。そして、家を建てるまでに250枚あまりのFAXでのやりとりも発生するとか。それが5分で見積もりができるようになり、紙のやりとりは一切必要なくなる。

 こういったサービスは、どんなにITの能力が高い企業でも実現できない。建築というコンテンツを持ち、LIXILのように建築に必要なさまざまなデータの蓄積があるからこそ実現できるものだ。

 SaaSでユーザーはサービスを受け取る。洗練され使いやすいインターフェイスやモバイルデバイスに最適化されたアプリケーションを使いたいわけではない。サービスがよければ、多少使い勝手が悪くても利用するし、本質は提供されるサービスの質であり使った際の満足度だろう。

 逆に考えればクラウドのインフラ部分はAmazon Web ServicesやIBM、マイクロソフトなどに持って行かれても、その上で必要とされるサービスにはコンテンツさえあればまだまだビジネスチャンスがあるということだ。今後クラウドのビジネスを考えるのならば、自分たちが提供するサービスのコンテンツとしての強さや質が勝負所となりそうだ。

 ところで、今回のK-engineには産業革新機構から20億円の第三者割当増資があり、親会社からの資本などトータルで54億6,000万円というベンチャーとしては大きな資本でのスタートになる。ITベンチャーが数億円の投資を獲得するのにもかなり苦労している様子を見ているが、今回のK-engineの展開はそれらとはまったく次元が異なるように見える。

 これも建築という大きな業界の強力なコンテンツを持っているからこそなのだろう。こういう面からもITのベンチャー企業になるよりは、特定業界のベンチャー企業で武器としてITやクラウドを活用する企業になったほうがいいなと思うところだ。

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