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電子教科書の可能性が電子書籍の1つの未来形だなと

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 先日、Adobe Digital Publishing Forum 2013というイベントに参加。いわゆるEPUBではなくて、Adobeの独自の電子出版手法を活用する世界の話。対象は主には電子雑誌、さらには電子教科書といったもの。

 佐々木さんと活動しているeBookProでは、EPUBを使って『MUSICA』や『JazzJapan』といった雑誌の電子化を行ってる。とはいえ、この方法だと、紙と電子を一緒に作るのはけっこう面倒くさいものがある。EPUB先行で作ってしまうと紙用に改めてレイアウトしなければならないし、紙先行で作ってしまうと、結局はテキストと写真や図版を抜き出してEPUBを一から作る(実際はCSSなどはある程度流用できるけど)ことになる。

 これに対してAdobe Digital Publishing Suite(ADPS)のほうは、紙の雑誌を作るのにいまではデファクトスタンダードとなっているInDesignを使って制作が行える。紙を作る際に、電子を意識して作ればそれなりに制作は一元化できることに(実際は端末サイズの問題とかあるので、そんな単純な話ではないけれど)。さらには、できあがった電子雑誌を課金、配布するクラウドのプラットフォームまで提供するのがADPSだ。

 iPadが世の中に登場した当初、電子雑誌はものすごい注目を集めた。印刷せずにすぐに世界展開でき、インタラクティブ性もある新たな広告表現ができるということで、紙の数十倍の広告費を集められる雑誌なんていうものも実際に登場したのだ。それから数年が経過し、いまではそれほどバブルな話は聞こえてこなくなったが、確実に電子で成功している雑誌というものも出てきているようだ。

「消費者は電子雑誌を、有償で買うようになってきている。iPad miniが発売されて以降、急成長している。」

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と言うのは、AdobeのSr. Director Business DevelopmentのNick Bogaty氏。現状ではADPS経由で、毎週200万誌を出版しているとのこと。このうち8割は有償の雑誌、書籍。そして、毎月8万人くらいのペースで読者は増えている。

 興味深いところでは、雑誌というメディアでは、iPhoneのような小さい画面の端末は向いていないと思われていたが、ここ最近はiPhone用が急激に伸びていること。そのために、iPad用をそのまま流用するのではなく、iPhoneに最適化した形で出版する例も増えているようだ。電子雑誌はこうでなければならないという固定概念は、早々に取り払ったほうが良さそうだ。ちなみに、eBookProでEPUBを採用している理由の1つが、世の中でもっとも多いであろうiPhoneでも読みやすいからというのは当初からある。

 先日のイベントで個人的にこれは面白いと思ったのが、電子教科書の領域。東京書籍の事例が紹介されたのだが、こんな教科書が自分の学生時代にあれば、もっと勉強がはかどったのではと思った。

 歴史の教科書などでは、映像をふんだんに取り入れている。さらには化学の教科書では、実験の変化の様子を映像だけでなく、グラフの時間軸に沿って画像が変化するといった工夫がなされるなど、かなり分かりやすくなっている。テキストと写真、図という紙の世界だけでは到底成し遂げられない世界だ。こういうのを見ると、現状の紙の小説なりをたんに電子化した電子書籍の先に、まだまだ大きな可能性のある市場が待っているなと期待が持てる。

 気に入ったので、この教科書を手に入れようと思ったのだが、1冊4,300円。ちょっと気軽に買える値段ではなかった。というか、教科書ってじつはけっこうな値段するものだったのね、と改めて知ることに。

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