PDF電子書籍はもう古い、リフローと固定レイアウトのハイブリッド型が海外では普及しつつあるとか
昨日は、電子書籍制作者向けの実践的なEPUB3の技術セミナーに参加していた。内容的には、オーディオ、ビデオの埋め込みと固定レイアウトについて。
EPUB電子書籍閲覧環境ビデオはiOSが一歩リード
EPUB3のオーディオ、ビデオの埋め込みは、基本的にはHTML5のものと同様に記述すればOK。もちろん、別途設定はしなければならないけれど。それでオーディオなりビデオなりを埋め込んだEPUBファイルはできあがるわけだが、リーダー側がそれをきちんと表現できるかはまた別の問題。現時点で、Android用のリーダーで、まともにビデオを表示できるものはほとんどないとか。埋め込んであっても何も表示しない、あるいは、代替えイメージやテキストを表示するというものがちらほら。一番たちが悪いのが、あたかもビデオを再生できるような枠だけ表示して、実際には映像は再生できないというもの。これだと、電子書籍側が悪いのではとクレームが来そうだ。
iOS側は少し状況がよくて、ビデオが再生できるものも。こういう傾向となっている1つの理由が、Androidは端末バラエティが多すぎるからではと講師を務めたオープンエンドの境氏は言っていた。この端末でOSバージョンがこれなら動くといった検証を、たくさんの端末で直接やらないとならないというのは、電子書籍の制作サイドとしてはちょっと苦痛だろう。iOSの場合は、iPadにしてもiOSにしても機種が限られている。なので、検証も楽だ。さらに、iOS系の最新の機種であれば、ビデオをスムースに表示するためのハードウェア装備もしっかりしているからだろうとも。
この状況もいまいまの話であって、端末もリーダーも日々進化している。なので、明日にはAndroidでもEPUBの中でうまくビデオを表示するリーダーが登場するかもしれない。とはいえ、端末バラエティが多いというのは、ユーザーにとっては選択肢が多いと言うメリットにになるのだけれど、制作者にとっては極めて悩ましい状況だというのは改善されそうにない。
ところで、ビデオの埋め込みでは字幕の表示なんかもHTMLレベルというかソースのレベルで指定できる。つまり、ビデオコンテンツの上にあらかじめ書き込んで置く必要はない。なので、複数言語テキストで字幕を用意しておけば、言語を切り替えて字幕表示することも簡単にできる。これは、語学教材など教育分野でかなり便利な機能となりそうだ。こういう機能を適宜盛り込んでいくと、紙にはない電子ならではの書籍になっていくんだろうなぁと思ったり。
固定レイアウトは思っている以上にニーズが高そう
もう1つの話題がEPUBの固定レイアウトの話。EPUBといえば、その優位性の1つがリフローすることだったはず。それなのにあえて固定しちゃったら意味ないじゃんと思うかもしれない。とはいえ、いわゆる画像を貼り付けた系の電子書籍はファイルサイズも巨大になりやすく、そうならずにデザイン性を追求したいというニーズには、EPUB固定レイアウトという選択もあるのだ。すでに絵本などが先行して、固定レイアウトで販売されている。
そしてこの固定レイアウトも、日々かなり進化している。縦のときは1ページ表示、横にすると見開き、あるいは1ページを大きく表示などを指定できたり、見開きのときは必ず奇数ページが左にくるようにするとかも可能だ。また、リフローの中に、固定レイアウトを混ぜるなんてことも可能に。これは、けっこうニーズありそうだなぁと思うところだ。文字組中心で読ませたいところはリフローで、そうでなく絵として見せたいところは固定レイアウトでという感じで使い分けられれば、画面が小さくてもかなり読みやすい書籍を作れそうだ。この固定レイアウトをかなり良い感じで表現できるリーダーは、現状ではAndroid用のHimawari Reader Proがあるそうだ。
もう1つの方向性が、リフローと固定レイアウトを自由に切り替えられるハイブリッド型の存在。たとえば教科書のようなものが電子書籍になっているとして、先生が30ページを開いてくださいと言った場合、リフローする電子書籍ではどこが先生の言う30ページなのか分からない。で、固定レイアウトで30ページを開いて、小さくて読みにくければそこでリフローに切り替えるというわけだ。
このハイブリッド型、海外ではいままでPDFで電子書籍を出していたようなところが、順次この形式に切り替えているらしい。今後はこのハイブリッド型が、ビジュアルをある程度重視しつつしっかりと読んで欲しい本の主流になっていくのかもしれない。このあたり、日本ではまだまだマーケットに載ってくるのは先の話かもしれないけれど、十分にキャッチアップしておく必要はありそうだ。来週はいよいよ電子書籍Expoが開催されることもあり、日本の電子書籍界隈がにわかに騒がしくなってきた。今日は、シャープが新たに『電子書籍の配信ソリューション「book-in-the-box」を提供』なんてニュースもあった。来週には、いよいよ楽天Koboの日本での正式発表もありそうだ。7000千円代で端末発売されるのではと予測(もっと安くてもいいけど)。昨日、境さんも言っていたけれど、電子書籍元年と言われていた2010年よりも、いまのほうがよっぽど忙しいとのこと。たしかに、我々eBookProへの問い合わせも増えている。やっときたこの勢いを、つかみ損ねないようにしたいところ。
ちなみに、昨日行ったEPUB3技術解説セミナーの第三弾も7月26日に開催予定だ。このときには、来週さまざまに発表される事柄も踏まえ、電子書籍世界の最新状況と今後の展望あたりについても触れる予定だ。