AdobeのクラウドサービスとFlashの行方について
先週、Adobeが今後提供を開始するクラウドのサービスと、先日来話題になったFlashの今後について記者説明会を行った。
Adobe MAX 2011で発表されたこのサービス、いよいよAdobeもクラウドサービスに参入なのかと単純に考えていた。よくよく中身を見てみると、クラウドのサービスというより、新たなサブスクリプションのプログラムと考えたほうが良さそうだ。
Adobe Creative Cloudには3つのサービスカテゴリーがある。
1. Creative Service
20GBのストレージでデータの同期などが可能、Digital Publishing SuiteのSingle Editionなども含まれる
2.Creative Apps
Adobe Master Collectionで提供されるすべてのツール、現在Laboで公開されているHTML5関連のツールEDGE、MUSE、さらにAdobe Touch Appsなどを利用する権利
3.Creative Community
アイデアやクリエイティブを共有するサービスや、オンラインのサポートサービスなど
これを見ると、クラウドサービス的なのは1番と3番。2番はオンライン上のソフトウェアを使ういわゆる「クラウドのサービス」ではなく、ソフトウェアそのものはオンプレミスで使う。ライセンス費用の支払いが、月額いくらという形での支払いになるものだ。このサービス、来年前半にリリースされる予定で、その中身のほとんどがまだ未定とのこと。ただし、いまのところ費用が月額1台5000円の個人用と、その上位プログラムに当たるワークグループ用の月額7500円が用意されるようだ。CSの製品群の中からこの製品とこの製品を選らんでいくらという設定はなされない模様。そうなると、個人で年額6万円という費用は安いのか高いのか、ちょっと微妙な感じもする。
電子書籍をビジネスにしている立場としては、1番に含まれているDigital Publishing SuiteのSingle Editionというのが気になるところ。これのメリットが十分にあるのならば、月額5000円も悪くない。現時点では、5000円払えば個人が利用する端末、たとえばMac、Winodws、その他のタブレットなどにソフトウェアをどのようにインストールしていいのかも現時点では未定。このあたりのルールも、このサービスを個人利用するかしないかを決める際に大きく影響しそうだ。もちろん、今後、いわゆるクラウドのサービスの部分がさらに充実してくれば、5000円も安いと感じるのかもしれない。
こういう、サブスクリプション型のライセンスに踏み切った理由は、環境変化の速さとのこと。目まぐるしく変化があるので、どんどん新しいバージョンの製品を出してそれに対応していかなければならない。しかしそうなると、次々と新しいバージョンのものを、ユーザーに購入してもらう必要もある。これは、安いソフトウェアではないので難しいだろう。ならばお金を継続的に払ってもらい、機能も継続的にバージョンアップしていく方法をとったというわけだ。これはクラウドのサービスの、基本的な考え方に近いものであることは間違いない。
その環境の変化にさらされているのが、Flashの世界だ。昨年だったか、iPhoneやiPadがFlashに対応する気配がないということで、Adobeは今後、Android陣営と仲良くする雰囲気が濃厚だった。AdobeがAppleと決別かといった論調もあったくらい。それが、結局のところAppleに屈服したようにも見えなくはない。モバイル用のFlashプレイヤーについては、次のバージョンの提供までで終了し、以降はメンテナンスサポートということになる。
で、取って代わるのがHTML5になる。HTML5はまだFlashに追いついているわけではないので、引き続きデスクトップの世界では「ブラウザ+Flash」の世界の進化は続けていくとのこと。モバイル環境については、HTML5で実現するものもあるし、ADOBE AIRでリッチコンテンツの世界を追求していくとのことだ。というのも、モバイルので世界では、リッチコンテンツはブラウザではなくアプリケーションで実現しているものが多いから。AIRとFlashを使えば、アプリケーションの形でリッチなコンテンツを提供できるというわけだ。
引き続き、デスクトップの世界においてはFlashの進化は続けていくとのことだが、この将来性については多少疑問というか不安もあるだろう。デスクトップ用に開発したFlashコンテンツはAIRを使ってモバイルでも表現できるかもしれない。とはいえ、デスクトップでもモバイル環境でもHTML5は現時点でも動くわけけで、ならば最初からコンテンツをHTML5で作ればいいのではと思ってしまうのもいたしかたがない。たしかに現時点ではFlashのほうが優位性がある、しかしその状況はいつまで続くのか。やがて追いつくのであれば、早くからHTML5に取り組むべきではと考えるのも無理はない。
実際、Adobe自身、HTML5には力を入れていく。まだLaboにあるソフトウェアだけれど、EDGE、MUSEのようにHTML5用のツールも続々登場する。Flash用として作ったコンテンツを、FlashにもHTML5にもはき出せるような仕組みの提供もより強化されてくるだろう。逆に言えば、クリエイターやアーチストにとっては、吐き出される形はFlashでもHTML5でもよく、自分の作りたいものが容易に表現できるツールが欲しいだけだろう。もちろんAdobeはそこのところを取りこぼすことはないだろうし、そもそも彼らに対抗するような強力なライバルも今のところ見当たらない。
そこで、冒頭の話しにもどり、Adobe Creative Cloudだ。当初は現状のアプリケーション資産の延長線上にあるサービスだが、これが本当にクラウド上のサービスへと進化していけば、フォーマットが何かなんてことはクラウドが吸収してくれる時代が来るのではないだろうかと思ったり。