EPUB電子書籍への追い風
5月にEPUB3.0という縦書きやルビなどに対応した新たな規格が決まることもあってか、ここ最近さまざまなところからEPUBに関するビジネスの相談がやってくる。
ところで、実際にEPUBをいくつか作成してみると気がつくことがある。どういうことかというと、現状がHTMLでWebページを制作し始めた初期のころの状況によく似ているということ。当時はHTMLがどんどん拡張されていく過渡期にあり、さまざまなブラウザーがそれに対応したり、標準規格になっていないものを先取りしていたりした。なので、当時もっとも頭を悩まされることになるのが、このブラウザでのこのバージョンではきちんと思ったとおりに表現されるのに、こっちのブラウザでは表示が崩れてしまうということに。そのためのチェックを行ったり、どれでも無難に表示できるようにするにはけっこう苦労したわけだ。
じつはEPUBはまさにいまそんな状況。仕様のほうはきちんとしたプロセスにのっとり規格化されているので、とくに混乱するということはない。しかし、EPUBを表示するリーダーの状況が、当時のブラウザーよりひどいのだ。いまのところAppleのiPadに搭載されているiBooksがかなりいい感じで表示される。このiBooksではなんら問題ないEPUBファイルが、PC上のいくつかのEPUBリーダーではほとんどまともに表示できない。これは多くの場合EPUBが悪いのではなく、リーダーソフトウェアの実装がEPUBの機能に追いついていないのが原因だ。
ところが、EPUB側にも問題がある場合も。EPUBの文法上はエラーがなくても、たとえばSony Readerでは表示が欠けたり、リフローするはずなのに文字の大きさが変えられないなどという場合がある。そのEPUBファイルのスタイルシートを確認してみると、本来は相対値で指定すべき値が絶対値になっていたり、マージン関連の指定に矛盾があったりすることを発見できる。じつはこれらの不適切な指定があっても、iBooksではなんら問題なくきれいに表示できたりするのでやっかいなのだ。さらには、EPUBとして間違えているわけではないが、記述の仕方(たとえば ”br” タグを入れる位置)によって、表示がおかしくなるEPUBリーダーも存在することが分かってきた。
このあたり、iPadだけでなくさまざまな端末で実際にテストしてみないとなかなか分からないところだ。だいぶeBookProとしては、ノウハウとして蓄積はできてきつつあるのだが、やっかいなのがAndroid端末。Androidには標準と呼ばれるようなEPUBリーダーが存在しない。なので、端末ごとに異なるリーダーが搭載されている可能性があり、それが端末メーカーオリジナルのものであったり、マーケットから入手したものであったりとさまざまなのだ。Android端末が次々と提供されつつあるいま、すべての環境を用意しテストするなんていうことは現実的ではない。なので、世の中でそこそこ売れているであろう端末でだけテストすることになる。Googleなりが、Android用のできのいいEPUBリーダーを提供してくれると、このあたりかなりすっきりするのだが。
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本日は待望のiPad2も国内販売が開始され、来月にはEPUB3.0も登場する。AdobeもInDesignのCS5.5というバージョンでこのEPUB3.0には対応する予定(すでにベータでは先行して一部対応を始めている)だ。さらに噂レベルではあるけれど、Apple JapanがiBooks Storeの日本のマネージャー職を募集しているという話も聞こえてきて、いよいよ日本のマーケットがオープンするのかという状況も。これらは、EPUB電子書籍には追い風になるのか。いやいや、ぜひぜひ、強い強い風が吹いて欲しいところだ。
ちなみに佐々木さんのところとの共同プロジェクト『eBookPro』では、電子書籍アプリの企画開発はもちろん、EPUBにも力を入れて活動している。すでに、AppleがiBooksの日本語対応マーケットを開いてくれたら、一気にコンテンツ投入できるような体制も整いつつあったりする。電子書籍に関するよろず相談も承っているので、気軽にお声がけいただければと。