ソフトウェアの開発費用は高いか安いか
現在、電子書籍に絡むビジネスを始めようと、模索中だ。なんだか日々状況が変わるような発表があり、自分たちの立ち位置や強みをどこで出していけばいいのか悩むところだ。
今回はそんな過渡期にある電子書籍まわりの話というよりは、その周辺にあるソフトウェアのコストの話。なんらか、電子書籍をいま日本で出そうとすると、ターゲットとして考えられるのはやっぱりiPadということになる。そうなるとiBooks Storeが日本市場に対応していないので、流通させたければアプリ化することになるだろう。そうなればアプリを誰かが作らなければならない。このアプリ、現状ではObjective-Cを使ってプログラムを書くことに。これは通常のアプリケーション開発と同じなので、開発者をアサインし設計して開発、テストという過程を経ることとなり、どのような機能を組み込むかにもよるが、1人~2人で数ヶ月程度の開発仕事になるだろう。そうなると、ざっくりとしたコストとしては100万~数100万円はかかることに。
このコストを高いとみるか安いとみるか。売ろうとしている電子書籍の利益が数千万円くらい見込めるのなら安いだろうし、それが数百万円程度なら高いことになる。実際、すでに電子書籍を作成するための数百万円規模のオーサリングツールなんていうものも出ている。これを利用すれば、コンテンツを揃えデザインレイアウトをすれば、紙への印刷からアプリ化するところまでを自動化することも可能だ。1冊の本のためにこのオーサリングツールを購入するのはコスト高でも、続けて多くの電子書籍を発行する予定があるのなら、これも安い買い物になるだろう。
そんな中で、Adobeの動きにはちょっと注目している。InDesignをベースに電子書籍を作るための機能が提供されてくる予定であり、うまく活用できれば大きなコストをかけずに電子書籍が作れるようになる可能性がある。コストもAdobeならばそれなりに競争力のある価格設定で出してくると思うし(というか、そう期待している)。現状でもInDesignではePubファイルの出力ができるが、いわゆる雑誌誌面のように自由にレイアウトしたものには対応できない。当然のことながら、縦書きの日本語なんてもってのほかだ。
ところで、Adobeのソフトは高いというイメージがなんとなくある。しかしながら、ここ最近、電子書籍がらみで最新のADOBE CREATIVE SUITEを購入し触ってみたりしているのだが、これだけの機能があるのならこの値段も納得できるしむしろ安いと感じるようになった。ツールを使えばこんなに便利にできることを、手作業でやっていたらいったいどれくらいの手間がかかるのかと思うこともしばしば。ソフトウェア開発会社を経営していると、ついつい人月でコスト計算してしまうので、その感覚からするとツールを利用することで得られる手間の削減度合いは、かなり安いなと感じてしまうところだ。
そんなことを考えていたら、最近は手間をどれだけ削減できるかではなく、それを利用したビジネスでどれだけ儲かるかで、ソフトウェアの価格が決まるようになりつつあるなと思い至ったわけだ。逆に言えば、たくさん儲かるなら大きく投資していいものを作り上げるし、もうからないならソフトウェアには金は出せないということ。まあ、当たり前といえば当たり前のことだが、これまでソのフトウェアの価格は、どれだけ手間がかかるかだけがその根拠だったのも事実。だから、下請け仕事からなかなか抜け出せない世界でもあるのだけれど。下請け仕事から脱却するためにも、ビジネス価値の高いソフトウェアを軽やかに開発できるような体制への脱皮が必要だなと強く思った次第だ。