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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

IT業界は沈みゆく船なのか

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 日経コンピュータの中村建助氏が、IT Pro11月7日付けの「記者の眼」で「IT業界が未熟なまま老いていくという不安を感じませんか」というコラムを書いている。ここ最近、自分でも不安に感じるIT業界、とくにSIの将来につながる部分は、内容の多くに共感できるところがある。

 中村氏は、日本ユニシスの籾井社長、情報サービス産業協会の会長であり新日鉄ソリューションズ会長の棚橋氏ら、他業界からITにやってきたお2人の話を聞き、IT業界が成熟していないことをあらためて感じたようだ。さらに、IT業界の不正会計の余波や人口減少傾向にある日本での今後の(優秀な)技術者不足を懸念している。

 このあたりの話は、IT業界を大きな括りでみるよりは、SIを中心としたすこし小さな範囲でとくに顕著だ。半導体やハードウェアは、ITでありながら製造業としての性格をもちろんもっているので、不正会計の問題などとは若干距離感がある。不正会計は、SI独特の下請け開発体制がその一因と考えられる。実態のまだないシステムを上流から下請けに流通させるだけで売上げを立てられるシステム開発の現場は、いくつかの不正会計事件が取り沙汰されたあとも大きな変化はない。他の業界では当たり前の発注書の徹底や検収の厳密化などが指摘されていること自体、IT業界が未熟な証拠であろう。

 一般の人々からすれば、IT業界は「不可解なところ」に違いない。システムに不具合があっても「バグですね」、修正のためには「サポート料金を払ってください」とお金する要求する。中村氏のコラムのなかにも、

問題なのは,何を話しているのか分からないというよりも,IT業界内部でしか通用しない言葉で話をしていると思われていることだ

とあるように、専門用語を並べ立てて説明するのも当たり前だ。IT業界の人間には、これら業界特有のことが「普通ではない」ことに気づいていない。これに加え、将来的に優秀な技術者が不足するようであれば、成熟する前に確実に老いて衰退しそうだ。

 フリーソフトのエンジニアには、日本人にも優秀な方がたくさんいる。企業の研究機関などにも、優秀なエンジニアは多いと思う。ところが、実際のシステム開発の現場はかなりお粗末な状況だ。優秀な現場エンジニアは追われる締め切りに疲れ切っており、収益を気にするマネージメントの要望に応えるために、不本意なシステムを収めざる得ない状況もある。15~20年くらい前はプロジェクトの規模も大きかったので、ある種の徒弟制度が確立し若いエンジニアが「育つ」土壌もあった。しかしながら、数人で短期のプロジェクトが増えた現状では、若いエンジニアを育てる時間も余裕もない。その結果、できる人とできない人の格差は、最近とみに開いているように感じる。

 オフショア開発もまだまだ問題はあるとはいえ、確実に安く技術力を得られるというのであれば、すべてではないにしても業務がそちらにシフトしていくことは否めない。優秀だけれど疲れたエンジニアしかいない、若いエンジニアが育つための土壌がない状況をみてしまうと、新たにこの業界にチャレンジしようとする若者が増えるとは思えない。

 中村氏と同様、先行きに不安を感じずにはいられない。この状況に対して、いったいなにをしていけばいいのだろうか。ある程度の淘汰は、時代の必然なのだろうか。

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