【妄想インタビュー記事】無料テレビ「フリーレグザ」の衝撃
※このエントリはフィクションです。本記事に登場する会社名や個人、架空のサービスは、現実の会社や個人などとは一切関係ありません。
東芝は2月24日、関東圏のテレビ視聴者向けに37インチの液晶ワイドテレビ「フリーレグザ37」の申し込み受け付けを開始しました。同社の人気液晶テレビシリーズ「レグザ」シリーズに、コマーシャル差し替え機能を搭載することで原則として無料(別途、使用開始手数料3,150円が必要)で無期限に貸与されるものです。申し込みには、ブロードバンドのネット回線の使用、クレジットカードの登録、世帯全員の情報の登録、視聴履歴のフィードバックを許諾といった条件が課せられています。なお、学生のみの申込みはできません。
フリーレグザの鍵となるのが「CMフリッパー」と呼ばれるコマーシャル差し替え機能です。CMフリッパーは、テレビ放送のCMを差し替えたり、オーバーレイ表示する機能を提供します。差し替え用のCMは、あらかじめネットワークを通じて内蔵ハードディスクに保存しておき、テレビ放送でCMが表示されるタイミングで表示されます。オーバーレイCMは主にテレビショッピングのときに使われ、テレビショッピングの放送中にリアルタイムでより安いまたは機能的な商品をオーバーレイで案内するという仕組みです。
この衝撃的なテレビの登場には、どのような背景があるのか、広報担当の鈴木氏に話を伺いました。
Q:デフレとは言え、大手メーカーの液晶テレビが無料とは驚きです。どのようなビジネスモデルなのでしょうか。
鈴木氏:民放テレビ局の市場は年間2兆円で、NHK受信契約者数が4000万世帯ですから、1世帯あたり年間5万円もの収益を上げているということです。1世帯に2~3台のテレビがあるとしても、1台のテレビから挙げられている収益は2万円程度です。当面は効率の良い関東広域圏に絞り、1台当たり年間で1万円程度の広告収益を見込んでいます。通常のテレビは7~8年程度で買い替えられますから、今後の生産コスト削減と合わせて十分に利益を生み出せると考えています。感触がよければ他の地域にも広げる予定ですが、放送圏の世帯数が少ない地方では難しいでしょう。
Q:CMフリッパーはどんな特徴があるのでしょう。
鈴木氏:CMフリッパーには視聴者の属性が登録されているため、民放連の放送基準に合わないものでも放送できます。たとえば、タバコやパチンコなど成人向けのコマーシャルを流せます。女性の単身世帯であれば、韓流ドラマを放送中に韓国旅行のコマーシャルを流すことが効果的ということもわかっています。CMフリッパーのおかげで、インターネットと同じような属性型広告が実現できるということです。効率的な訴求力はCM単価の向上にも貢献すると考えています。
Q:普通のコマーシャルを見たいという人もいるのでは?
鈴木氏:CMフリッパーの存在が邪魔になるようでは意味がありません。むしろ通常のテレビCMとしては放送できないものをCMフリッパーで見せることで、CMフリッパーこそを見たいと思ってもらおうと考えています。視聴者や視聴履歴に配慮することで、視聴者に合ったコマーシャルを表示できます。また、NHK の料理番組で、食材や調理器具などのコマーシャルをオーバーレイ表示するといったことも検討中です。
また、テレビショッピングで紹介されている商品が「本当に安いのか?」「型落ち品じゃないのか?」と思う人は多いでしょう。そんなときに「もっと安い商品」「最新機種」の案内が出せれば、視聴者にとっても嬉しいはずです。テレビショッピングのオーバーレイCMについては、価格コムと共同でリアルタイムの情報案内システムを開発しています。クレジットカードも登録されているので、ボタンを押すだけで即購入することもできます。さらに、将来的には独自コンテンツの提供も考えています。
一方、通常の CM を見たいという要望にも応えられるよう、テレビの買い取り(68,000円相当)もできます。買い取りされたテレビでは、CMフリッパーのオン/オフを切り替えられます。そうすれば、テレビショッピングのときだけCMフリッパーを使い、それ以外では通常のCMを見るという設定もできます。
Q:貸し出し式なのはなぜでしょう?
鈴木氏:当初は、安価なテレビとして売ることも考えましたが、そうするとあまりテレビを見ない人が買って、差損が生じたまま収益につながらない可能性があります。そこで思い切って“無料”というインパクトを得つつ考えたのが、貸し出しというスタイルです。
たとえば、1週間のうちテレビの視聴が1時間以内の場合には、スイッチを入れた時点で強制的に30秒のコマーシャルを表示するといった対策を取っています。録画された番組を見るときにはCMフリッパーは機能しませんので、リアルタイムでテレビを見ないというのも困ります。このため、あまりテレビを見ない人については当方の判断で回収するか、買い取ってもらうということが規約で定められています。ただし、収益にならない世帯から全部回収してしまうわけではありません。やはりある程度普及させることは重要ですから、それほど厳しい制限をかけるつもりはありません。
Q:CMの差し替えで本編がカットされたりしないのでしょうか。
CMの差し替えはIPマルチキャストを使った独自技術ですが、実は、通常のテレビ放送よりも2~3秒の遅れが生じます。この時間差はCM差し替えで本編がカットされないようにするためのバッファとなっています。このため、短い時間でチャンネルを切り換える際には(ザッピング)、CMフリッパーの動作を一時的に停止するといった仕組みが入っています。この点は、モニター調査でも違和感を持たれない程度にまで改善できています。
Q:法的な問題はないのでしょうか。
鈴木氏:法務部とも検討を重ねましたが、ユーザーが利用規約に同意することが前提ですし、CMフリッパーは放送されるテレビ番組を複製する機能ではないので、著作権を侵害することはありません。ビジネスモデルが“フリーライド”と呼ばれることは覚悟していますが、もはやテレビはハードウェアで稼げる時代ではありません。今後は、さらに大画面のテレビを割安に提供することを検討していますし、さらに効率的な運営を目指すために他のテレビメーカーにCMフリッパーをライセンスすることも考えています。
日本民間放送連盟は「CMフリッパーはテレビのビジネスモデルを壊滅させかねない不公正な仕組み」と訴えているものの、消費者庁は「消費者のメリットが第一」と静観のかまえを見せています。CMフリッパーがテレビ業界の救世主となるのか、無料パソコンのように失敗に終わるのか、今後の動向が注目されます。