データがスポーツを100倍面白くする!
皆さん、初めまして。このたび「誠ブログ」にブロガーとして参加することになりました、伏見学と申します。
普段はアイティメディアが運営する媒体の1つである「@IT情報マネジメント」で編集記者をしております。誠ブログでは、「スポーツとIT」をテーマにさまざまなコンテンツをお届けしたいと考えています。
いまや、トップクラスのプロスポーツから草野球などのアマチュア競技まで、ITはスポーツに密接にかかわっています。例えば、サッカーの試合で選手の動きをデータ化して解析したり、野球で投手の配球パターンを分析したり、あるいは、CRM(顧客情報管理)システムでクラブチームの収益増加を図ったりと、スポーツにおけるIT活用は枚挙に暇がありません。Webサービスを使って草野球の対戦相手を探すことも立派なIT活用といえるでしょう。本ブログでは、このようにスポーツを支えるITをさまざまな切り口で眺めていきます。
ブログ開設記念となる今回、本ブログのテーマにふさわしい方に話を聞いてきました。
●スポーツデータのプロ集団
訪れたのは、野球やサッカーをはじめ、さまざまなスポーツ競技データを扱う専門企業「データスタジアム」です。プロ野球やJリーグはもちろんのこと、プロアマ合わせて200近いスポーツチームをサポートしているほか、メディア各社にも随時データを提供しています。まさに、スポーツデータに関するプロ集団であり、日本のスポーツを陰で支えている存在といっても過言ではありません。
ときはサッカーW杯南アフリカ大会の真っただ中。普段以上に業務に忙殺される合間をぬって、コンテンツプロダクション部部長の斎藤浩司さんと、同部サッカーユニットの杉崎健さんがインタビューに応じてくれました。
サッカーユニットは、日ごろJリーグや海外リーグ、代表戦などの試合におけるあらゆるデータを収集、分析しています。その数は年間750試合に上ります。映像を元に、自社開発したサッカーデータ分析ソフト「データストライカー」などを活用して、「誰が、いつ、どのエリアで、誰にパスした」など1プレイごとの細かいデータを生成しています。1試合当たりのデータ入力数は2000回、時間にして13~14時間かかるそうです。今回のW杯では、試合翌日の夜にはメディアなどにデータを提供しているため、その多忙ぶりが容易にうかがえます。しかも大会期間中は毎日ですから...。
そんな苦労を垣間見たところで、サッカーにそれほど詳しくない私のような初級者がW杯を観戦する上でどのデータに注目すると面白いか聞いてみました。
「選手の特徴が分かるようなデータに着目してみてください。例えば、日本代表の岡崎選手は『守備がうまい』と言われていますが、実際にデータを眺めると、自軍エリアで精力的に動き回っていることが数値として裏付けされています」(杉崎さん)
例えば、岡崎選手が相手からボールを奪う確率が高いエリアというのがあって、それを知りながら観戦すると、より楽しさが増すというわけです。
「選手に対する印象と実際のデータとのギャップも面白いのではないでしょうか。長友選手は走行距離が長いという印象がありますが、(W杯初戦の)カメルーン戦では、遠藤選手が両チームの中で最も長い距離を走っています」(斎藤さん) (※走行距離データについては、同社の取得データではなく、FIFA公式記録を参照しています)
そのほか、ロングパスの成功率が前回大会と比べて低いといった印象があり、これがデータ分析を進めていく上で、裏付けされる可能性があるとも話してくれました。
W杯南アフリカ大会・予選リーグ、日本VSカメルーンの詳細データ1(画像提供:データスタジアム)
W杯南アフリカ大会・予選リーグ、日本VSカメルーンの詳細データ2(画像提供:データスタジアム)
●高まるデータの重要度
こうした詳細データをチーム側ではどのように活用しているのでしょうか。Jリーグではチームごとにばらつきがあり、専属の担当者をつけてデータ分析を行うチームもあれば、意外なことに、データをほとんど活用していないチームもあるそうです。後者に関しては、監督やコーチの経験や直感を"データ"として選手たちに提示されていることが多いそうです。ただし、あるチームでは、コーチの主観データだけでは選手たちがいまひとつ理解してくれないこともあり、データスタジアムが提供する客観データを活用するようになったといいます。
ちなみに、欧州のクラブチームでは当たり前のようにデータ活用がなされているようです。データの収集や分析においては「日本は海外と比べて技術面では多少遅れている程度」(斎藤さん)とのことですが、データ活用という点においては日欧でまだまだ開きがあるようです(ビジネスの現場でも似たような話をよく耳にしますね)。
ただし、サッカーにおけるデータの重要度は日進月歩で高まっています。この背景にあるのがITだと杉崎さんは強調します。以前は、データといってもほぼ映像しかなく、監督やコーチはそれを元に戦術を立てていましたが、2002年の日韓W杯以降からPCを活用してさまざまな数値化したデータを作成できるようになったといいます。今後、データの量、質ともに増大、高度化していくことは明らかです。そうしたデータを駆使していかにチームの勝利につなげるかといった考えがこれからさらに広がっていくでしょうし、そうしたスキルを持ったアナリストのような役割がチームに求められてくるかもしれません。
●明日からできる、データ活用術
最後に、私たちがスポーツする上でのデータ活用について伺いました。例えば、草サッカーでほかの一歩先をいくようなデータ活用術はあるのかどうかという質問をしたところ、「試合を映像に収めることは必須で、その上で、攻撃に関するデータを集めてみてはどうか」というアドバイスをいただきました。お薦めなのがパスのデータを取ることで、選手ごとのパスの数や、どの選手が誰にパスを出したかというデータだけでも、戦術に生かせる新たな発見があるようです。
スポーツ観戦者にとっても、スポーツ競技者にとっても、データはスポーツに対する楽しさ、面白さを増幅させるアイテムであることは間違いなさそうです。スポーツとデータの関係について、ますます興味を持つことができたインタビューでした。