腐人の肖像2~彼氏は現実、BLはファンタジーだから両立できる~
小柄な身体を紺色のワンピースに包んだTさんは20代半ばくらいの印象だ。
「もう三十路なんですよ、前半です」
と答えた彼女は会社勤めのキャリアウーマンらしい。
もちろん会社ではオタク、腐女子的嗜好は隠しているが、
ある日子持ちの同僚から、とあるアニメキャラについて聞かれ、
「なんでそんなこと私に聞くの?」と焦ったとか。
「でも、二人きりの時に聞かれたので、その同僚なりに気を遣ってくれたみたい。
そういう気の遣われ方って何なんでしょうね?」
と言って笑った。
●同人誌とは知らずに同人誌を読み始めた
オタクの世界に入ったのは姉の影響が大きい。
姉がロボットアニメ『魔動王グランゾート』にハマり、
買い揃えたビデオなどを一緒に見ているうちに、
後番組で始まった『魔神英雄伝ワタル2』に姉妹でハマる。
それから、アニメ雑誌などを購入するようになった。
同時に、それらの同人誌アンソロジー本を「同人誌とは知らずに」読んでいた。
(「普通の書店で売っていましたから」との答えに倉澤は少々驚いてしまい、
(Tさんにジュンク堂のそういった本のコーナーをを案内していただいた・笑
高三の姉が夏休みに、受験勉強の息抜きに読み始めた同人誌の古本にハマり、
その秋「一人で行くのはちょっと」と、高一の妹を巻き込んで即売イベントにでかける。
「ちなみに、姉は無事に第一志望の国立大学に入学しました。
それからは、姉とふたりでちょくちょくイベントにでかけましたね」
自分でもマンガを描こうと思って道具をそろえたが、
イメージ通りの絵が描けないので断念し、今は二次創作の小説を書いている。
「活字は、脳内で理想のイメージを展開しながら読めることろがいいんです
いくつかのジャンルを経て今は邦楽です。いわゆるナマモノ(※)ですね」
●【萌えるタイプ】と【付き合うタイプ】は違う
初期の萌えは『ワタル2』の中のクラマというキャラ。
「クラマはお兄さんキャラで、海火子っていう年下のキャラに
お兄さん風をふかすんですよ。そういうところにキャーってなっちゃって...」
という彼女は、姉以外に兄弟はなくずっと女子校で
思春期に父親以外の男性と接する機会はほとんどなかった。
「お兄さん風をふかすタイプ」に男性としての理想像のようなものを感じ、
憧れはするものの、クラマに恋心を抱くというよりは、
クラマと海火子の関係に萌える気持ちのほうが強かったようだ。
「現実の恋愛でも、そういったタイプと付き合ったことはないですね。
リアルはリアル、萌えは萌え、で全然別物、
彼氏との恋愛は現実、同人活動はファンタジーですから両立できますよ」
と涼しげに語る彼女には、男性が放っておかない部分があるようで、
「今まで付き合った人は自分から好きになったのではない」という大変羨ましい人だ。
相手の告白から始まった恋愛遍歴の中で、
何人かの「彼」は彼女の「活動」を知っていた、という。
「向こうもオタクでしたから、特に干渉されることもなかったですね
しかも、夏と冬の一定期間はデート中に機嫌が悪くなりますから、
早く原稿やりたくて(笑)そうなるともう、ばらさざるをえません」
と言って笑った。
最近は「同級生」的な関係に萌えを感じるのだとか。
「今やってるジャンルのカップリングは同級生とか幼馴染み的な萌えなんです
今のお前だけじゃなくて昔っからのお前を知ってるぞ、っていう感じ
遠慮なしの気安い関係がなんかいいなあ...、って。
私、幼馴染みの友達っていないので、すごい憧れなんです」
現実の恋愛経験を創作にいかすことはない、という彼女。
「お兄さん風」も「幼馴染み」も彼女の経験の中にないからこそ、
ファンタジーに昇華できるのかもしれない、とふと思った。
●私としてはBLにエロはなくてもいい
「自分が腐女子であることについて?
一般的には社会行動として間違ったことはしていないし、
何かあなたにご迷惑をおかけしましたか? と思う。
有害図書指定とか、どこが有害なの?という反発を感じます。
確かにこれはちょっと...っていうのもありますけど、
BLという概念自体は有害じゃないと思うので、
のべつまくなしにエロ本コーナーに置かれると
私のようは隠れ腐女子は買い物に困っちゃうな...と。
会社ではバレないように振舞ってますけど、
友だちには別に隠してないです。
でも、どういうジャンルでどういうものを書いているか、とか
そういったことは知られたくない」
と語る彼女、実は大変な声フェチだ。
「キャラにハマッた声とBGMと効果音さえあれば、
理想の映像が自分の脳内に展開できますから、絵が邪魔な場合もあるんですよね」
腐女子の脳内グラフィックスペックは高い場合が多いのだ。
※ナマモノ 漫画やアニメなどの二次元キャラではなく、
芸能人や有名人といった実在する人物を題材にしたジャンルのこと