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フォックスコン(ホンハイ: 鴻海科技集団)と朝鮮人参

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フォックスコン(ホンハイ: 鴻海科技集団)がミシガン湖畔の小さな街ラシーン市からほんの少し内陸部に入ったところにあるマウント・プレザント(ウィスコンシン州)に巨大な工場を建設すると発表し、ウォーカー知事と調印してから約2年が経ちました。あまりにも巨大な計画だったので、工場建設の調印がなされた時は毎日ように地元メディアを賑わしていましたが、ここにきて少し落ち着きを取り戻してきたようです。ニュースが減った一方、工場建設は日々着々と進んでおり、フォックスコンの進出が僕の目からも見える形となってきました。

なぜここに工場を作るのだろう?


ミシガン湖に面したラシーン市にはとても美しくて気持ちの良いヨットハーバーがあるので、天気の良い週末には僕も時々自転車に乗りに行ったり、散歩に行ったりします。しかし美しいのは湖畔に面したヨットハーバー周辺だけで、一歩内陸部に入ればどこか寂れていて治安が悪い地域になります。さらに一歩内陸部(ここがマウント・プレザント)に入るとやはり寂れた農耕地帯と湿地あるだけで、僕の印象では、この辺一帯は貧しく危険で、シカゴとミルウォーキー間の単なる通過点となっていました。

そのマウント・プレザントに「フォックスコンが1兆円以上の投資を行い、1万3千人が働く大工場を建てる」というニュースが、2017年初頭に流れました。まだトランプ大統領が就任して間もない時期だったこともあり、共和党にとっては絶好のニュースになりました。またここは、大統領予備選挙でトランプ氏と戦った同じく共和党のウォーカー知事のお膝元でもあり、もしフォックスコンの誘致がもう少し早く決まっていたら、大統領予備選挙に影響を与えていたかもしれません。

日本のメディアはフォックスコンを「従業員をロボットように長時間働かせるブラック企業」「自殺者が多発する企業」「シャープを買収したハゲタカ企業」のように負の側面ばかりを強調して悪者のように報道していますが、こちらのメディアは一切そのような報道はありません。むしろフォックスコンは世界一の電子機器製造企業であり、最新鋭のテクノロジーを駆使した工場を建てて地元の経済や雇用を救ってくれるヒーローのような存在として「概ね好意的」に報道されています。

「概ね好意的」と書いた理由は、環境団体が異議を唱えているからです。というのは、フォックスコンが稼働を始めるとマウント・プレザントは1日当たり2千6百万リットルの水をミシガン湖から吸い上げ、そのうち2千2百万リットル(80%以上)をフォックスコンに割り当てるだろうと言っているからです。これではミシガン湖の環境が維持できないと、環境団体はフォックスコンに強く反対しているのです。

確かに半導体や液晶工場は水を大量に使います。この環境団体が反対するニュースを聞いて、なぜフォックスコンが寂れたマウント・プレザントにわざわざ工場を建てたいわけが分かったような気がしました。きっとミシガン湖の豊富な水が目当てだったのかもしれません。

地元への影響


それにしても小さなマウント・プレザントでいったいどうやって1万3千人の雇用を見つけるのでしょうか。やはり外から人が移住してくる他に方法はないでしょう。それを見越してか、地元では農地の地上げがすでに始まっているようです。これまで補助金に頼って細々とトウモロコシや大豆を作っていた農家が農地を売って一夜にして億万長者になったり、閑散としていた地域が住宅地に生まれ変わってきています。

マウント・プレザントには往復6車線の高速道路が通っていますが、それをフォックスコンのために往復8車線に変える拡張工事が行われています。工事のおかげで渋滞に巻き込まれて僕も迷惑を被っているのですが、一方で凸凹だった道路を綺麗に直してくれるのかと思うと、「フォックスコンの投資も悪くないな」と思ったりもします。

フォックスコンのための専用車線からはトラックが自動運転で工場まで自走する、という話も聞いています。フォックスコンが稼働を始めると、僕も自動運転のトラックと並走することになりそうです。自動運転など未来のことだと思っていたら、気が付いたら目の前まで来ていました。

米国の失業率は現在とても低くて、企業は従業員の採用に苦労しています。その上フォックスコンが来てしまっては、フォックスコンに従業員が獲られてしまうのではないかと、地元企業は更なる心配をしています。僕が働く会社でも、今年から若年従業員の給与と年次有給休暇日数を一斉に引き上げました。噂ではフォックスコンを警戒しての対策だったのではないかと言われています。

フォックスコンが採る完全包囲戦略


米国への進出を絶対に成功させるために、フォックスコンは地元の反対勢力を抑える完全包囲戦略を行っているように僕には見えます。

環境団体は他にも「フォックスコンは1日当たり1千万リットルの水をミシガン湖に戻さない」として反対していましたが、それを抑えるために、さらに33億円の追加投資して、水の再利用装置を設置してミシガン湖から吸い上げる水の量を減らすことを約束しました。さらに地元大学の環境学科への寄付や研究投資だけではなく、環境エンジニア職の採用も広げています。

地元の印象を高めるために、社会貢献やソーシャル・コミュニケーションの専門職の募集も積極的に行っています。米国では退役軍人の失業が問題になっていますが、それに応えるために3000人の退役軍人を採用する約束もしました。

「半導体や液晶マーケットは移り変わりが早く、近い将来すぐに工場を閉鎖するのではないか」「単純作業労働者だけを採用するのではないか」など、専門家からの強い批判に対しては、地元大学と先端技術の共同研究を始めたり、新しい研究所の設置を始めました。しかもそれらは人工知能など最新鋭のコンピュータ・テクノロジーに関するものばかりです。フォックスコンの求人リストを覗いてみても、エンジニア職の求人がずらりと並びます。求人票を見る限り、「従業員をロボットように長時間単純作業させるブラック企業」というイメージは微塵も感じられません。

米国では医療費が異常に高く、それが第一の社会問題になっています。それに応えてのことなのでしょうか、フォックスコンは医療にも投資するようです。地元の医大と共同研究して医療装置などの開発を始めるだけではなく、病院も作る計画があるようです。求人リストに看護師や医療ビジネス関連の職種がたくさん見られた理由は、きっとこの計画のためなのでしょう。

米国社会に溶け込むために、どんな投資をも惜しまないフォックスコンの熱意が伝わってきます。これだけ投資してもらって、誰がフォックスコンに文句が言えるのでしょうか。

フォックスコンが朝鮮人参ビジネスにも投資


あまり知られていないことですが、ウィスコンシン州は朝鮮人参の大生産地で、主に中国向けに出荷が行われています。そのため昨今の米中貿易戦争でウィスコンシン州の朝鮮人参産業はもろに影響を受けてしまいました(15%増の関税のため)。

そんな時、久々に面白いニュースが流れました。フォックスコンがウィスコンシン州の朝鮮人参産業にも手を差し伸べてくれるというのです。フォックスコンはウィスコンシン州の朝鮮人参産業に投資するだけではなく、さらなる雇用を生み出してくれることも約束してくれました。またアメリカ人の健康のために朝鮮人参を医療に応用してくれることも約束してくれました。あの世界一の電子機器製造企業がアメリカのために朝鮮人参ビジネスも手伝ってくれると言うのです。アメリカにとってこんな嬉しいことはありません。

フォックスコンが大きな計画が発表した当初、僕は「金持ちが札束で貧乏人の頬を叩くのか」と思いましたが、これまでのフォックスコン動きを見ていると、今ではフォックスコンが足長おじさんのように思えるようになりました。

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