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ペン・セレモニー

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先日帰郷した折、一年ぶりに父に会いました。近況報告や雑談をしているさなか、父がふと「このペン使っていないから、政広にあげよう」と言って、黒いペンを静かにテーブルに置きました。黒くて太いモンブランの万年筆です。

その瞬間、ある映画のワンシーンを思い出しました。映画 ビューティフル・マインド の「プリンストン大学のペン・ペンセレモニー」の場面です。初めてこの映画のこの場面を観たときは、感動のあまり涙が止まりませんでした。

Pen Ceremony.PNG

画像引用: https://www.youtube.com/watch?v=U68B0MW4GIA

古い映画なので知らない人も多いかと思いますが、この映画は「ゲーム理論」でノーベル経済学賞をとった天才数学者 ジョン・ナッシュ の半生を描いた作品です。総合失調症からくる幻覚に悩まされ、その奇行が原因で同僚からも家族からも変人扱いされます。それでも「ナッシュ均衡」という理論を証明し「ゲーム理論」の発展に貢献したジョン・ナッシュの過酷な半生を描いた映画です。

その映画の中で、ナッシュ氏がノーベル経済学賞を受賞したとき、大学の同僚(教授や研究者)たちが一人ずつナッシュ氏に万年筆を贈る場面があります。偉大な功績を築いた学者に最大の敬意を示すために自分の万年筆を捧げる、「プリンストン大学のペン・セレモニー」と言われる場面です。それまで皆から変人扱いされていたナッシュ氏が、このセレモニーによって同僚から最大限の尊敬を受けるのです。僕にとってはこの場面がこの映画の最大のクライマックスで、今でも YouTube でこの場面をみると、涙が出てきます。

父が万年筆を静かにテーブルに置いたとき、この映画の場面が蘇ってきて、初めて父に認められたような気がしました。父には会社で昇進を受けたことは一切話していませんでしたが、そんなタイミングもあり、ますます父に認められたような気になったのです。

念のため父に「ビューティフル・マインドっていう映画知ってる?」「ペン・セレモニーって知ってる?」と確認したところ、まったく知りませんでした。もちろん名門プリンストン大学についても良く知りませんでした。

「じゃあ、どうして万年筆をくれるの?」と改めて尋ねると、「この万年筆はあまり使っていないから」と、そっけない答えが返ってきました。「インクはくれないの?」と聞くと、「インクは他の万年筆で使っているから、あげない。それくらい自分で買え」だ、そうです。

「勝手に」父から認められたと思って、今では毎日その万年筆を使っています。ちなみにその万年筆、「モンブラン マイスターシュテュック 149」 というタイプで、普通に買うと10万円くらいする品です。10万円の万年筆を手に、父からペン・セレモニーを受けたものとして、勝手に自己陶酔しています。


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