マットレスの無人販売
ISPA (International Sleep Product Association) によると、ベットのマットレスを取り換える平均的な期間は約9.4年ほどだそうです。自動車の平均寿命が約11年程なので、マットレスの寿命も自動車の寿命もだいたい同じ長さのようです。そのためか、僕の近所には自動車販売店(ディーラー)と同じくらいの数のマットレス販売店がいたるところで店舗を構えています。
しのぎを削っている多くのマットレス販売店の中でも、最近特に気にになっていたのが"Hassleless Mattress(ハッスルレス・マットレス)"というお店です。「ハッスルしなくてもマットレスが買える店?」「どういうこと?」と思って、ちょっと中を覗いてみました。
ドアを開けて中に入ってみると、たくさんのベット(マットレス)が広い店舗に静かに並んでいるだけで、人は誰もいませんでした。セールスマンもいなければ、マネージャもいないのです。ただたくさんのベットが整然と並んでいるだけでした。これにはちょっと驚きました。アマゾンの無人店舗が最近話題になっていましたが、どうやら無人店舗はアマゾンだけではなかったようです。
店内をもっとよく見渡してみると、ひとりの女性がベットで寝ていました(ヘッドボードに姿が隠れていた)。僕の気配に気付いたのか、いきなり"むくっ"と起き上がったので、僕は"ぎょっ"としました。もしかしたらセールス・レディがベットで休んでいただけなのかと思いましたが、まったく話しかけてこないところを見ると、どうやら僕と同じ単なる客だったようです。ここでは勝手に客がベットに横になっていてもいいようです。
「どうやってマットレスを買うのか?」「店のシステムはどうなっているのか?」色々と疑問が湧いてきたので、店内にある説明書きを読んでみました。それによると、
- 店は朝9時になると自動的にドアの鍵が開き、夜9時になると自動的にドアの鍵が閉まる
- 店は365日毎日開いている
- お客さんは、ドアが開いている時間は勝手にお店に入って色々なマットレスを自由に試すことができる
- もし質問があれば、電話やテキスト、メールを送って聞くことができる
- 注文は"Hassleless Mattress"のウェブサイトから行う(店に備え付けのコンピュータ有り)
- 注文したマットレスは無料で次の日、少なくとも4日以内に配達する
ということでした。要は「マットレス(見本)をお客さんが自由に試すことができるオンライン・ショップ」のようです。
このシステム、客の立場から言わせてもらうと、人目を一切気にせずに色々なマットレスにゴロゴロ寝っ転がりながら、また時にはボンボン跳ねながら品定めができるので、結構楽しいシステムだと思いました。また店内はエアコンが効いていて快適だし、お菓子でも食べながらマットレスに寝転んで、さらにスマートフォンで映画でも見ていれば、簡単に小一時間はこの店で過ごせるのではないかと思ったほどです。試しにしばらくの間マットレスに寝転んでいましたが、この蒸し暑い夏の昼寝にはもってこいのお店だと思いました。
このシステム、ビジネスの立場から見るとどうなのでしょうか。
思えばこの建物はこの無人店舗が入る前は、しばらくの間空きテナント状態でした。もしかしたら借り手のいない空きテナントを格安で借りて、このマットレス無人店舗を展開しているのかもしれません。「展開」と書いた訳は、この会社は他にも同じようなマットレス無人店舗をいくつか持っているからです。多くの無人店舗と一つだけの倉庫(オフィス兼?)を使って、最小限の在庫と人件費で運営している会社のようです。
「マットレスが盗まれないのか?」とも思いましたが、マットレスはすごく重いので(クィーンサイズの場合、僕一人ではやっと引きずって動かせる程の重さ)、盗むのはちょっと大変です。それにきっとカメラに映っているので、盗もうとすればすぐに警察に通報されてしまうでしょう。
格安の空きテナントを使って、しかも人件費ゼロで多店舗展開ができるこのビジネス・モデルは、案外優れたアイデアだと思いました。アマゾンの無人店舗のように最新鋭のITを駆使しているわけでもありません。かなりコストの安い無人店舗ビジネスです。
- 買回り品
- そう簡単には盗まれない商品(または盗まれない仕組み)
- 手や肌に触れて試してみたい商品
- 難しい説明がいらない商品
- 格安のテナントがある(衰退したシャッター通りなど?)
などの条件を満たせば、色々な商品で無人店舗が展開できるのではないかと思いました(例えば家具や風呂の浴槽、畳マットなど?)。このような無人店舗が増えることで、今後はセールスマンの在り方も変わっていきそうです。
P.S. リーンシックスシグマに関するブログも更新しています。