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影響力のある社員を活かす,BBCのソーシャルメディア運用ガイダンス

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先週末,47NEWSのTwitter公式アカウントが閉鎖に追い込まれました。47Newsは「47都道府県52新聞社のニュースと共同通信の内外ニュースを束ねた総合サイト」。47ニュースのウエブページによると,一万人を越える一流のプロ記者が活動しています。良質な記事を配信している国内でも有数のニュースサイトです。その公式アカウントには,およそ相応しくない運用実態に,非難の声が集まりました。

■47News Twitter公式アカウント閉鎖の経緯
 アカウント名は47NEWS編集部(@47editors)。47NEWS公式キャラクターの「てくにゃん」が発信している体で運用。ツイートは「にゃ」や「ニャー」といった語尾をつけて発信。いわゆる軟式ツイートを特徴とするアカウントでした。アカウント開設は6/25。閉鎖は7/23でしたので,運用期間は一ヶ月にも及びません。閉鎖前のプロフィールには次のように記載されていました。

「僕は47NEWS公式キャラクターのてくにゃんだにゃん。僕が日本と世界のニュースを紹介するにょ♪ 楽しみにしててにゃん。※47NEWSは共同通信と全国の参加新聞社が運営しています。このツイッターは47NEWS編集部の記者とスタッフによるものですが,会社の公式な見解とは必ずしも一致するものではございませんのでご了承下さい。」

「47NEWS編集部の記者とスタッフが運営」とあります。「スタッフ」は外部委託の方かもしれませんが,記者も運用に関与している事を宣言しているアカウントです。問題となった発言には,次のようなものがあります。

「・・・日本で無期懲役とは事実上の無罪放免なのですにゃ・・・」
「死刑は世界に誇れる極刑ニャー!」
「ストレステストにガタガタ文句たれる奴は日本放射線汚染化推奨派認定にゃ」
「沖縄の米軍は左遷された兵士が行くとこらしいにゃん。つまり,落ちこぼれの軍人の巣窟ということにゃ。・・・」
 など,一般人が発信した内容でも,かなり特殊な主張になっています。ましてや,ニュースサイト公式アカウントからの発言です。「会社の公式な見解とは一致しない」とプロフィールに但し書きされていても,批判の声が上がることは当然です。

そして,事後対応にも問題がありました。
47news

図 事後対応を批判するツイート

ポイントは以下の2つです。
(1)問題となったツイートの削除
 特に問題となったツイートだけ削除して,その後はまた素知らぬふりで同じようなツイートを継続しました。謝罪もせずに,「なかった事にしようとした意図」と感じた読者からは,図のようにその対応を批判する意見が多くみられました。

(2)謝罪掲載までの時間経過
 図のツイートが発信されたのは7/2215:34。この時点で,運用サイドは発言に問題があったことを認識して,初動対応していることになります。社長が謝罪は迅速でした。謝罪ニュースは7/22の19時前には,J-castニュースからの転載記事がyahoo,エキサイト等のニュースポータルサイトで報道され始めした。翌日午前中にはasahi.comや日経新聞でも記事としてとりあげられました。しかし,当の47NEWSでのニュース配信及びウエブサイトへの謝罪掲載は,1日以上経過した23日の20時を過ぎてからでした。その間「この問題をうやむやに終わらせるつもりか?」といった意見がTwitterや2chなどで数多く見かけました。社長が謝罪した他社のニュース記事はあくまで,伝聞。当事者の企業サイトで,正式に迅速に謝罪を掲載することが,求められます。

 今回の47NEWSの事例は,ニュース配信を生業としている組織の公式アカウントでの出来事である故に,話題拡散のバイアスが,かかりました。当然,情報発信のプロである記者の方々を多数抱える組織では,組織的も記者個人も情報統制に対しての意識が高いと思われています。しかし,謝罪文には,

適切な管理体制と必要な準備が整うまでツイッター・サイトを閉鎖することといたしました。

とあります。本来,公式アカウント運営を開始する前に用意すべき,「管理体制と必要な準備」が用意されていなかったことを明らかにしています。情報発信のプロであるがゆえに,準備しなくとも大丈夫との自負があったのかもしれません。

■BBCのソーシャルメディア活用

同様に,膨大な情報発信のプロを抱える英国BBCは,ソーシャルメディアを積極的に活用しています。こちらにアカウントの一覧ページがあります。主な公式アカウントの活性化状況を以下に,まとめてみました。
Bbc001
図 BBCのソーシャルメディア・アカウント

 図のように,ニュースのカテゴリやテーマ別にTwitterアカウント,Facebookページを用意しています。
 Twitterでは,速報ニュース用のアカウント@BBCBreakingで,160万人を越えるフォロワーがついています。一般読者との対話は,@BBC_HaveYourSayに集約。プロフィールにはSMSアカウントやメールアドレスまで公開し,投稿を受け付けています。
 Facebookでは,World Newsのページで100万人を越えるファンを抱えています。1投稿あたり200-500件程度のコメントが付いており,かなり活性化している様子が伺えます。
 前出の公式アカウントの一覧ページには,「Presenters(プレゼンテーター)」15名,Correspondents(特派員・記者) and Reporters(レポーター)で20名の個人アカウントも掲載されています。掲載されているのは,Twitterアカウントですが,プロフィールをチェックすれば,ブログやFacebookアカウントも確認できます。youtubeで検索すれば,出演しているBBCのニュース番組の映像がヒットする,著名な方々ばかりです。発言の影響力も相当高いと推測されます。

■BBCの新しいソーシャルメディア・ガイダンス
 BBCはこれらのアカウントの運用を,何のルールもなく許容しているものではありません。BBC Editorial Gudelinesが用意され,Webサイトで公開されています。Editorial Guidelinesは,BBCの「価値観」や「基準」を定義したGuidelinesと,それを実践方法を詳細に説明したGuidanceに分かれています。それぞれ,相当なボリュームです。
 Guidelinesでは,BBCにおけるバリューの定義から始まり,公平性,正確性,プライバシー等多方面についての考え方を纏められています。これに対してGuidanceでは,音声や映像のニュースリリースやオンライン上での子供との対話,犯罪報道,金融ジャーナリズム,調査報道等に関する注意点等が独立したテーマとして規約化されています。例えば「Language when Reporting Terrorism」(テロリズム報道時の言葉遣い)といった項目があります。「テロリスト」という言葉を使う際に,思慮しなければならないポイントを,事例をおりまぜて,丁寧に説明しています。ソーシャルメディアの活用についても,独立した項目はもとより,様々な項目の中に多数の記載があります。このように充実したGuidanceですが,7/14に社員・関係者向けに,ソーシャルメディアに関連する新しいルールと注意事項をまとめNews: Social media guidanceをリリースしました。

当然英語ですが,翻訳を試みました。概ね次のような内容でした。

1. Your own personal activity, done for your friends and contacts,but not under or in the name of BBC News
(個人的な活動〜主に一般従業員向け)

・BBCのメンバーであること,とりわけニュースに携わるものであることを自覚して「愚かな行動」をしないでください。
・個人的な活動にせよ,読者はBBCを代表する行動として見ていることを,自覚してください。
・BBCで働いていることを公表しても問題有りません。BBCやあなたの担当している雑誌について,ディスカッションしても構いません。しかし,それらの発言が個人的な意見であることを明らかにしてください。
・政策や好みについて公平性を欠いた発言は謹んでください。BBCの評判を落とすような発言や同僚の批判は謹んでください。守秘義務を遵守してください。こっそりとwikipediaページ等を都合の良いように変更しないでください。
・ブログを始めたいなら,先ずラインマネージャーと議論してください。(相談しても,無分別に開設を止めることはありません。潜在的な危険について議論してください。)また,既に運用しているなら,必ずこの議論をしてください。

2. Activity for core news (eg breaking news), programmes or genres carried out officially in the name of BBC News(公式アカウントからの発言〜主に公式アカウント運用者向け)

・読者と良好な関係を構築することを,推奨します。
・必ず公開する前に「複数の人の目でチェック」するようにしてください。
 「2人目の目」は,「発言が,あなたやBBCを苦境に陥れること」から防いでくれるでしょう。
・行動にうつす前に慎重に,用心深く考えてください。
・実効性を考えましょう。(誰にとって有益か?チェック体制は確立しているか?無理に運営していないか?内容は公平か?)
・担当編集者とよく相談しましょう。
・ログインネームとパスワードをチームメンバーと共有してください(転職したときや病気になったときに,他の誰かが引き継げるようにするためです)。
・全てのアカウントは,担当編集者,ソーシャルメディア編集者の代表,ニュース担当のソーシャルメディア編集者が初期化出来るようにしてください。
・読者に「一貫性がある」と受け取られる運用をしてください。

3. Activity of editors, presenters, correspondents or reporters carried out as part of official BBC News output.
(BBC Neswが公認する個人アカウントの活動〜主に企業が認めた影響力のある社員(プレゼンター等)向け)

・現在,BBC Newsが公認する個人Twitterアカウント(limited official individual BBC News accounts)は,インタフェース一覧に記載してあるものが全てです。
・これらのアカウントでは,全ての発言がBBCの公式なアウトプットとして扱われます。個人的な興味関心事を排除して,専門性や法律などに照らし合わせ,矛盾のない内容でなければなりません。
・これらのアカウントでは,その発言が,シニア編集者やアシスタント編集者に自動転送されるよう,特別なコンプライアンス手順が求められます。
・BBCとしてではなく個人名として行動してください。通常は,BBCの公式なニュース記事にリンクする事柄・意見は差し控えてください。
・もし,公式アカウントに興味があったり,公式アカウントに推薦したい人がいる場合には,ソーシャルメディア編集者に連絡してください。

■影響力のある社員(*HIRO)のソーシャルメディア参加を前提とした運用ポリシーの準備

 上記のとおり,BBCの「新しいソーシャルメディアガイダンス」では,一般従業員,企業公式アカウント運営者に加えて,ネット上で影響力のあるキャスターや記者等の個人を,肯定的に活用する決意をもって,ルールを策定しています。ニュースサイトを運営する企業でなくても,ネット上での影響力を有する社員もいます。彼らが,安心して,生活者や顧客との関係性を高める活動ができれば,企業にとってもソーシャルメディアを活用するメリットが,大幅に高まります。逆に変な使われ方をすれば,大きなイメージダウンに繋がるリスクもはらんでいます。積極的にソーシャルメディアを活用したい企業においては,HEROを発掘し,会社と関係性のあるアカウントと認定し,彼らが積極的に活動できる運用ポリシーを整備することが,不可欠となるのではないでしょうか。

*HERO: High Empowered Resourceful Operative の略,ケロロ軍曹に学ぶ企業Twitterアカウントの運用術で,その内容を紹介していますので,参考ください。
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