社員向けソーシャルメディア・ハンドブック
■ 社員発の炎上事件は続く
東日本大震災発生前に「急増する「社員発」炎上事件。その対応策と予防策」を紹介しましたが,震災以降も社員や企業関係者が火種となった炎上事件が続いています.印象的だった社員発の炎上事件を紹介します.
(1)東京電力のケース
東京電力社員が首都圏在住者に向けて
「私たち東京電力を非難することはかまいません。 しかし、不自由だとか自分たちが被害者だといった考えはやめてください。 電気を使え、うちに帰れば家族がいる生活に幸せを感じてください。」
とブログで訴えかけました.ブログ内で「炎上覚悟の投稿」と書かれていますが,覚悟通り炎上,投稿から10日も経たずに閉鎖されました.今も魚拓ページで内容を確認できます.周囲で精一杯働いている同僚・関係者や被災者の実態に触れながら,計画停電に対する不満を耳にし,投稿を決意・実行したことを想起させます.反発の論拠は「(東京電力の)社員の立場でいう内容でない」「上から目線で発言されるいわれはない」などでです.会社を代表しているとも受け取れる発言にも違和感がありました.
更には,4/15にはmixiでも新入社員と思われる女性が
「東京電力の批判をしてますが、今電気を使えてるのは誰のお陰ですか?
よく考えてから批判するように!!!文句あるなら電気使うな!
あなたみたいな陰湿な事をいう人間がいるから日本人の質が問われるんです。」
と発言しました.「電気を使わさせてやっている」とでも言わんばかりの高飛車な態度が反発を招き,Twitterや2chを通じて炎上中です.こちらもアカウントは削除され,今は魚拓ページで確認できるのみです.
(2)TSUTAYAの店長さんのケース
震災当日の夜,TSUTAYA店舗のTwitterアカウントから
「テレビは地震ばっかりでつまらない、
そんなあなた、ご来店お待ちしています」
と発言がなされました.
通常であれば「時事ネタ」をおりまぜて営業活動したに過ぎません.今回は「時事ネタ」が歴史に残る深刻な災害であるために,強い反感を買いました.直ちに店長の実名で謝罪ツイートがなされましたが,炎上は収まらず,様々なネットニュースにも取り上げられました.
(3)日産レンタカーTwitterアカウントのケース
上の事例と比べると些細で「炎上」とはとても言えませんが,ソーシャルメディア運用時の課題としては,象徴的なケースなので紹介します.日産レンタカーのTwitterアカウント@LEAF_RENTは,3/11の16:07(震災が起きた20分後)に次の発言をしています.
桜はまだもうちょっと先ですが、週末はレンタカーで遠出なんてのもいいですね!
私が確認した範囲では3件の批判的な反応(ツイート)がありました.「空気よめよ」といった批判です.大地震直後で動揺しているフォロワーからすると,間の悪い呑気なツイートと受け取られてもしかたありません.
アカウントの運用状況を調べてみると,毎日13時ごろと16時ごろの2回/日配信するルールになっている模様です.地震当日も,そのルール通り運用されたことが伺えます.震災発生からごく短時間でのツイートなので,対応が難しかったのかもしれません.あるいはアカウントが地震の影響がない地域で運営されているのかもしれません.とはいえ,重大な事故や事件が起きた際には,現場担当者が瞬時に受け取り手の心情を配慮した判断をする必要性を教えてくれます.
これらの教訓は,「運用者や社員が適正にソーシャルメディアを活用するための教育」の大切さを伝えています.
■社員向けのソーシャルメディア・ハンドブック
このような状況を憂慮する一部の企業・機関は,社員向けのソーシャルメディア教育に力を入れ始めています.当社でも,社員向けのソーシャルメディア教育に関する問い合わせが,増えてきました.個別組織向けに教育用のソーシャルメディア・ハンドブック作成も請け負っていますが,参考になるハンドブックがありますので紹介します.
米国陸軍のソーシャルメディア・ハンドブック,Army Social Media Handbook 2011(US Army)です.
米国陸軍のソーシャルメディア活用状況にふれておきましょう.ホームページには,ソーシャルメディアアカウントの一覧表が用意されています.4/21現在の状況を確認すると,
facebookページ 930件
twitterアカウント 266件
Flickrアカウント 205件
youtubeチャネル 122件
でした.途方も無い規模で活用されていることが分かります.
表紙の写真は戦地に赴いた兵士が家族とビデオチャットをする様子です.情報統制の厳しい軍隊であっても,家族との連絡などにソーシャルメディアを使うことを肯定する姿勢が見て取れます.戦地でもどこでも常用できるようにiphone版も用意されている徹底ぶりです.ハンドブックは全40ページ.昨年発行された2010年版は15ページですので,ボリュームも大幅に増しています.
内容をみてみましょう.
・Letter from the Chief of Public Affairs 〜 陸軍広報室長(責任者)からのメッセージ
・Social media summary 〜 ソーシャルメディアについて(サマリー)
2010年版ではfacebookやTwitterの機能等の紹介が主体でしたが,今回は「ソーシャルメディアとは何か?」だけでなく,「軍はソーシャルメディアをどのように考えているか?」「なぜ,ソーシャルメディアを使うのか?」といった踏み込んだ内容になっています.
・Social media for Solders and Army personnel 〜 ソーシャルメディアとの関わり方
兵士として組織の一員として,ソーシャルメディアと関わる際に気をつけるポイントを説明しています.軍のハンドブックらしく,機密情報や位置情報の漏洩は軍事上大きなリスクになることを強調していますが,一般的な著作権への配慮も求める記載もあります.
・Social media standards for Army leaders 〜 リーダー(部門長)としてのソーシャルメディアに関わる基準
リーダーとして兵士(部下)とのオンライン上での関係構築に関する注意事項や,報酬を得てのブログ投稿することが軍規違反であることなど,指導すべきポイントが纏められています.
・Checklist for operations security 〜 参加時のチェックリスト
オフィシャルページに投稿する際に注意すべきチェックリストがあります.より安全な言い回しを指導する具体例も用意されています.
・Establishing and maintaining an Army social media presence 〜 公式アカウントの作成方法
ソーシャルメディアを活用を開始する際の戦略立案,軍の公式アカウントへの登録方法,効果測定,傾聴の推奨などを説明しています.
・Using social media for crisis communications 〜 ソーシャルメディアの活用方法
キーとなる読者や関心のある人々に迅速に情報を伝えたい場合(軍なので危機報道手段として活用することを想定しています)に,ソーシャルメディアを積極的に活用することを勧めています.更には,情報の更新を怠らないこと,質問になるべく答えること,モバイル端末を使うことなどを積極的に推奨しています.方や,発言を信頼して行動する読者のことを考えて慎重な行動を取ることや,会話内容をモニタリングしたり,分析することも指導しています.
・Checklists for establishing an official social media presence 〜 公式アカウントを設立する際のチェックリスト
「ソーシャルメディアポリシーを学習したか?」「目標設定はしたか?」「対話したい相手ははっきりしているか?」など
18のチェック項目が掲載されています.
・Army Branding 〜 ブランディング
ロゴやエンブレムだけでなく,組織のアイデンティティーもブランドであることを理解し,ソーシャルメディア上でも用法・振る舞いに注意することを求めています.
・Social media case studies 〜 ケーススタディー
様々な部隊での直接的な活用事例だけでなく,事件が起きた際にソーシャルメディアが果たした役割なども紹介しています.
・Social media resources 〜 ソーシャルメディアマネジャー、兵士やその家族が参照すべきソーシャルメディアサイト
ポリシー関連の参照先URLとそれ以外にチェックすべきURLを掲載しています.
・Ebclosure(1)-(3) 組織(陸軍や国防総省)が発表した文書類
・Frequently asked questions 〜 FAQ
勿論,軍組織の特性が盛り込まれた内容になっていますが,「陸軍」を「企業」に,「兵士」を「社員」に置き換えていただければ,企業が社員向けに策定する際の参考になると思います.
ちなみに,米国の軍は,陸軍だけでなく海軍も空軍もソーシャルメディアを積極的に活用しています海軍のソーシャルメディア・ハンドブックや空軍のソーシャルメディア・ハンドブックも公開されています.こちらも参考にしてみてください.