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日々の「ハッ、そうなのか!」を書き留める職遊渾然blog

「やらない」という選択を評価する

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一橋大学大学院国際企業戦略研究科が運営する「ポ―ター賞」という賞があります。

ポ―ター賞は、製品、プロセス、経営手法においてイノベーションを起こし、これを土台として独自性がある戦略を実行し、その結果として業界において高い収益性を達成・維持している企業を表彰するため、2001年7月に創設され、2007年度で第七回目を迎えます。賞の名前は競争戦略論の第一人者であり、長年にわたって日本企業に関心を寄せてきたハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授に由来しています。

ポーター賞 - ポーター賞とは

知人のKさんが「審査基準が興味深い」と教えてくれたので見に行きました。以下に見出しだけ引用します。リンク先には各5行程度の解説あり。

(1)各業界において優れた収益性を維持していること
(2)各業界において他社とは異なる独自性のある価値を提供していること
(3)戦略に一貫性があること
(4)戦略を支えるイノベーションが存在すること
(5)資本の効率的な利用
(6)独自のバリューチェーン
(7)トレードオフ
(8)活動間のフィット

ポーター賞 - 審査基準と方法

「トレードオフ」というところにハッとしましたね。『企業は「何をしないか」を選択する必要があります(同ページより)』という理由から、「何をやらなかったか」を審査の基準に加えています。戦略的に選択しなかったのか、経営資源の制約で自然とそうなったのか(、あるいはその選択肢に気がつかなかったのか)判別が難しいところですが、何か基準を設けているのでしょう。とにかく、明示的に「何をやらなかったか」を基準に加えているところが戦略賞チックでいいですね。

例えば2006年の受賞企業のひとつである、株式会社 ガリバーインターナショナル。授賞理由を述べた文書から、「トレードオフ」の項目を引用します。

  • 在庫を一定期間以上持たない(超えたものは中古車オークションへ売却)
  • 実車の展示販売をしない
  • 店舗で価格設定しない、オークション出品手続きをしない
  • 加盟店募集の際に業界経験者を採用しない

2006年受賞企業・事業部(PDFファイル)

アントレプレナーの戦略思考技術 「何をしないか」を考えることは、弊社のようなマイクロカンパニーでも重要です。何しろ経営資源がとても限られているので…。かといって、自社の戦略にこだわり過ぎてせっかくの機会を見逃せば「発見」がない。僕は「発見こそが戦略である」という言葉が好きです。これは『アントレプレナーの戦略思考技術―不確実性をビジネスチャンスに変える』という本で見つけました。

本書の中心になっている考え方は、不確実な将来への道筋をプロットし、そこへ踏み込んではじめて直面する現実を見てから軌道修正を行うという、仮説指向型のアプローチである。
(太字は引用者)

何にこだわるか、何にオープンでいるか。この選択こそが重要で、経営者のセンスといって片付けてしまわずに深掘りして考えてみたいところです(が、今日はここまで)。

ポーター賞では「戦略の一貫性」も審査基準に含まれています。ただし、組織は理念をかなえるためにあるのであり、戦略を一貫させるためにあるのではありません。一貫した戦略を取って成功した企業を探し出して表彰するポーター賞の意義は大いに認めつつ、経営者諸氏は、同時にこれが後付けの評価作業であることに留意すべきと思います。誤った戦略(←これも後づけの定義)にこだわって失敗したケースの方が多いでしょうからね。

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