無料でお試しの罠
IT業界でもよく使われるマーケティング手法のひとつに期間限定でソフトやサービスを無料で試用させるというのがある。
魅力あるソフトやサービスをとりあえず使わせることで、便利さを体感さえてそれ無しではいられなくしたり、試用中に溜まってしまったデータを無駄にさせないために正規版の購入を余儀なくさせたり、あるいは機能限定版の試用でも効果があることを検証してもらって高価な正規版の購入にふみきらせる、といった効果を狙って採用されることが多い。
ユーザにとっても、カタログや資料ベースで説明されている機能の確認や実業務との適合度の検証、操作感など使い勝手の確認ができるのでこういったお試し利用という制度は便利だ。
ただし、この提供するツールがナレッジマネジメント(特に情報蓄積や共有系、あるいはコミュニケーション支援系)に属するツールの場合、無料でお試しという手法がアダとなるケースがあるので注意が必要。
ナレッジマネジメント系のツールは一般的に無ければ無くても済むものが多い。あれば便利だが無くても手作業やそれまでのやり方で済ませることができるのである。だからツールを導入してもなかなかユーザが使ってくれなかったりする。今までの慣れたやり方を変えてまで新しいツールを使うモチベーションが沸かないことが多い。
上記で無料でお試しという手法が失敗するというのは、
「別に無料だから気合を入れなくて良いや」
「とりあえず良くわからないから試用を申し込んでおこう」(申込後に導入だけ行ってあとはそのままほったらかし)
のような意識が働くからである。
情報を蓄積したり共有することを支援するツールでは、ある程度のデータが溜まらなければ便利さや効果が実感できない。同じくコミュニケーション支援系のツールは、当然コミュニケーションを取りたい人が複数集まって皆で利用しなければ効果を発揮できない。
そうして上記のような安易な試用を経た後の結論は、ツールが使いづらいとかツールの必要性が無いとか(使っても無いのに)導入効果がみられないということになる。使ってないという原因に目を背けツールのせいにされること続出である。
私の過去の失敗経験から言うと、情報蓄積や共有系あるいはコミュニケーション支援系のナレッジマネジメントツールの場合は、無料でお試しというのはあまりお勧めできない。例えば値引きを含んだ特別価格での提供や期間限定の試用料を貰うことをお勧めする(但しナレッジマネジメント系でもサーチとかポータルといった利用時に便利さが実感できるツールはちょっと事情が異なる)
これは別のそのときに受け取るお金で元を取ろうというのではない。初期導入時に若干でもお金を払った場合、払った分の元を取ろうとか投資した事の説明を上司にする為だとかで、試用時にちゃんと利用して評価しようという意識が生まれるきっかけになる。利用が進めば、ツールに対してより正しい評価を得ることが期待できる。