アメリカで医学を学び、今はフィットネス×テックビジネスで成功。すべては情熱の赴くままに。
野菜中心の食生活、瞑想、そして柔術によって得られた丈夫な体とビジネスの成功の秘訣を43歳のFitTimeの創立者が解き明かす。
バーベルを持ち上げたり、トライアスロン大会に参加したりすることが健康の証と思われるかもしれない。だが、フィットネス愛好家であり起業家でもあるマイク・リンにとっての健康とは、肉体の状態だけではなく、メンタルの強さや栄養素の摂取量、そして幸福までをも含めた意味である。
中国で生まれ育ち、医学部を出たリンは外科医になるはずだった。だが彼は海外で挑戦することを決め。最終的にアメリカへやって来た。リンは中国の医療システムが気に入らず、外の世界を見てみたいという願望があった。
始めはバイオメディカルの研究からスタートしたものの、ビジネスがもつ複雑性に興味を惹かれ、ビジネスを学ぶことにした。インディアナ大学でMBAを取得したあとは、デロイトコンサルティングで働き始めた。同社では5年過ごし、グローバルに展開するヘルスケア企業の新興国市場における戦略の策定・実践などに従事した。
リンはデロイトでの仕事を楽しんでいたものの、彼の中で起業したいという強い想いが消え去ることはなかった。そしてその想いがリンを次の行動に踏み出させた。リンは急遽中国へ戻り、フィットネスとテクノロジーを掛け合わせたビジネスを立ち上げたのだった。そしてリンの情熱と起業家精神はオンラインフィットネス企業のFitTimeという形になった。携帯電話やスマートTVでFitTimeを利用するアクティブユーザーは2千万人を超えている
"医学を勉強したので、初めは健康になることを目指していました。でも医学では病気の治し方を学んでも、健康でいる方法については何も勉強しなかったのです。アメリカ滞在中はアメリカのフィットネス文化に影響を受け、私もウェイトトレーニングを始めました。とても気に入ったので、世界中の人々とこの想いを共有したいと考えたのです。"とリンは言う。
健康の意味を再定義する
夢が現実のものになった時、リンは幸福も追い求めるようになった。だが、年齢を重ね賢くなる中で身体的な衰えやメンタルの落ち込みがリンの健康への考え方を変えさせた。単に病気にならないことを目指すのではなく、病気や怪我から回復する力を強化する方向に転換したのだ。そのために欠かせないのが食生活で、特に食べ物の摂取が重要である。リンは、すべての病気を治してくれる魔法の薬など存在しないのだから、食べ物の摂取が健康に大きく関わっていると考えている。
"私の考え方は変わりました。体は毎日労わる必要があります。そしてその中で一番大事なのは口にする食べ物です。私は今菜食生活をしていて、もう10か月経ちます。体の調子はいいですが、実は別の目的があります。筋肉をつけたいとか痩せたいとか、そういう理由ではありません。"とリンは話す。
健康になるためのはっきりとした答えはないとリンは認める。もしそんなものがあれば、誰もがベジタリアンになれば済む話である。ただ、菜食生活には少なくとも2ついいことがある。まず、植物は人間の身体にとって有益なファイトケミカルを生み出す。そして菜食生活を続けると、高い発がん率と関係がある動物性たんぱく質の摂取量が減る。
"私は43歳なのでがんや持病、心臓病、糖尿病、心の病にかかる可能性が高く、そのどれもが食べ物と関係しているのです。ですから、私は食べ物に対する見方が大きく変わりました。"とリンは話す。
リンは現在ボディビルダーやフィットネス専門家ではなく医師が書いた菜食生活に関する本を幅広く読んでいる。また、「意識的に」生きる方法として瞑想を実践している。ただ、リンの瞑想とはよくある静かな場所で心地良いBGMをかけながら座って目を閉じるというものではない。
意識を集中させるということ
瞑想へのアプローチを強調しながら、"私は基本的にマルチタスクはしません。"とリンは話す。"一度に1つのことしかしませんし、その1つのことに全力で取り組みます。柔術の練習が終わるまで携帯電話を開きません。食事中は携帯電話を遠くへ置き、音楽も聴きません。画面もテレビも見ませんし、本も読みません。食べ物を味わい、食べ物を見つめ、食べ物が口に入り、口の中で噛み、食道を通る感覚を感じたいのです。そして私の体が食べ物をどう感じているかに耳を傾けたいのです。今という瞬間に集中するにはこれが一番です。"
リンが柔術を好む理由はその身体的な動きだけではなく、柔術の哲学的な面にもある。"戦いで1番良いのは頭を使うことです。"とリンは話す。"その次は自分の体重を使ってチェスをするということです。つまり、ほとんど力に頼っていないのです。頼るのは力ではなく、力学です。そう、不均衡な状態を生み出し、弱いところを突くのです。色々な動き方をせざるを得ないので柔術が好きなんです。"
リンはこれらの考え方を自身のビジネスにも取り入れてきた。FitTime社の従業員の意識の高さは、健康に対する強い想いがあるからこそだと話す。そのような想いをもつことは同社で働くための必要条件となっている。また、リンは同社の上海オフィスにジムを作った。その一画には柔術の練習スペースがあり、動画制作用のスタジオや新しいアイディアを生み出す場所としても使用することができる。
健康的な人生を送るための4つの柱
突き詰めていくと、健康的な人生を送るための4つの柱なくしては腹筋が6つに割れているだけでは健康ではないとリンは考えている。その4つの柱とは、肉体の健康、経済面、専門的なスキル、そして人間関係である。"よく脚が4本ある椅子に例えます。脚が1本なくても椅子は倒れませんが、2本なくなると倒れてしまうでしょう。"
人生における幸福と成功がなんなのか、そうそう簡単に答えが出るものではない。なにか一つ決まった答えがあるわけでもなく、ひとつひとつの答えも簡単に理解できるものではなく、主観的である。リンは、"成功とは朝気持ち良く目覚めることです。"と話す。
その言葉は彼の心に強く響く。誰かに課せられた成功の定義ではなく、"自分の心の中で定義した幸せ"だからである。
リンは最後にこう結ぶ。"結局こういうことだと思うのです。ジャック・マーだろうとジェフ・ベゾスであろうと、朝起きた時の気分が重要なのです。あなたはいい気分で目覚めますか?もしそうであれば、あなたは成功していると言えますよ。"
注:この記事はentrepreneur.comに掲載されたものです。