すべてには意味がある、「私たちの新しい成長のカタチ」(第二回吉田晴乃記念 年次イベント)
今年の東京は、梅雨らしい雨が降る日が少ない。一方で熱海、日本海側、島根などは、地球が涙を流しているかのような災害に見舞われている。織姫と彦星が出会うとされる7月7日、この星に生きる全ての人が手を携えて世のなかをよくしようと願う150名に上る有志が、オンラインでHYMEC(吉田晴乃記念実行委員会、TEAM EXPO2025共創チャレンジWOMEN'S EXPO 2025メンバー)主催の第二回吉田晴乃記念:年次イベント~つながって創る「私たちの新しい成長のカタチ」~に集まった。
テレコムで世界を駆け抜けた故 吉田晴乃氏
日本を代表するグローバル企業の経営者として知られる故 吉田晴乃氏の略歴は紹介するまでもないかもしれない。BTジャパンの代表取締役社長を務め、日本経済団体連合会審議員会初の女性役員、内閣府規制改革推進会議委員、W20 Japan共同代表、2017年のフォーチュン誌選出World's Greatest Leaders 50では日本人としてただ一人選出された、などなど輝かしいキャリア、政官財への影響力を持つ日本の宝だった。2019年6月30日、前日の「G20大阪サミット 女性のエンパワーメントに関する首脳特別イベント」における演説を全うし、突然の心不全で55歳の若さで他界した。
女性のエンパワーメントが社会を良くすると確信し、自身も通信事業者(テレコム)出身でテクノロジーによって世の中を良くする力を信じる筆者としては、生前に吉田氏に会えなかったのが痛恨の極みだった。しかし、故吉田晴乃さんとのつながりの中で、その刺激を受け、ビジョンに共感し、自ら行動を起こしたいという想いを持った多様な有志メンバーが集まって立ち上げたHYMECのおかげで、今年初めて吉田氏の力と希望に直接触れ、勇気をもらうことができた。
意志を形に、女性活躍アクションへのカウントダウン
吉田氏が掲げたビジョンは、2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)におけるWomen's EXPOの実現を目指した「女性のエンパワーメントを通じた新しい成長のカタチ」。今年の第二回吉田晴乃記念 年次イベントは、2025年に向けて、より多くの人がつながる年にしようと、「CONNECT」を訴えた。
HYMEC代表の塚原月子氏(カレイディスト代表取締役、EMPOWER(女性の経済的代表性のエンパワーメント及び向上)の日本共同代表)は「今日を皆さんがつながる、ビジョンを共有する、アクションを一緒に起こす日にしよう」と呼びかけた。そして七夕の願いとして、
1 スピーカー、参加者同士の出会いを楽しむ
2 参加者自身の可能性を広める、アクションへのヒント、手ごたえを持ち帰る
ように、一人ひとりに声をかけた。
渋沢栄一が描いたお金と社会、未来のためにはダイバーシティが必須
「渋沢栄一が描いたダイバーシティとおかねまわし」をテーマに基調講演に登壇したのは、故 渋沢栄一氏(1840-1931)の玄孫(5代目の孫)であるコモンズ投信株式会社会長 渋澤健氏(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役CEO)。渋沢栄一氏は、生涯に約500社の企業育成、約600の社会公共事業を生み出し、慈善事業、民間外交など幅広い社会経済活動で日本の成長をけん引した人物として知られ、発行の1万円札の顔になる人物だ。
栄一氏の著書「論語と算盤」(仁義と富貴)から「よく集めよく散ぜよ」を紹介し、世の中のためにならないタンス預金を止めて、社会を良くするお金の使い方を提言した。自身が子どもを持ったのをきっかけに、将来の世代のための資金を作ろうと立ち上げたコモンズ投信における「こどもトラストセミナー」の内容から、子どもにお金を教える4つのステップを紹介。まずは、「使うこと」。これは子どもが自分でできることだ。そして「貯めること」、これも子ども自身ができる。次に「寄付」これは、子どもも人のためになりたいと思う気持ちがあるので、すんなり伝わるという。
この段階で、お金が自分(ME)のものから私たち(WE)のものになるのだ。最後が「投資」。保護者が働き、お金を稼ぎ、子どもが衣食住や楽しみを手に入れるというサイクルは、お金が社会に循環して「ありがとう」の連鎖ができることを意味する。お金に価値が高まるのが投資だ、と述べた。
また、同著(教育と情誼)「偉人とその母」から「女子に対する旧来の侮蔑的観念を除去し、女子も男性同様国民として才能知徳を与え(中略)活用せしめる(抜粋)」という言葉を紹介。ただし、働かせるといったニュアンスを持つ「活用」ではなく「活躍」ではないか、と微笑みながら玄孫としての注文をつけた。
つまりは、人口の半分が働けば、お金が世に周り社会が良くなる。これがまさに吉田氏が生前、繰り返し、繰り返し訴えていた、女性のエンパワーメントによるよりよい世界の実現につながるのだ。世界がつながることによるサステナビリティとインクルージョンの実践とも言えるだろう。
キャシー松井氏が語る「Road to Board 女性役員への道を拓く」メディアへの注文
その後は分科会に進み、女性役員、女性企業家、女性リーダーと地域活性、SDGs・エシカル消費と4つに分かれた。筆者は冒頭の「Road to Board 女性役員への道を拓く」分科会に参加した。そのファイヤーサイドチャットの登壇者は、日本初のESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンドとして注目を集めるMPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナーのキャシー松井氏。
1999年に女性活躍による経済成長と社会変革「ウーマノミクス」提唱したことで知られ、ゴールドマン・サックス証券の元日本副会長及びチーフ日本株ストラテジストとしても著名だ。昨年上梓された『ゴールドマン・サックス流 女性社員の育て方、教えます-励まし方、評価方法、伝え方 10ケ条 (中公新書ラクレ)』はウーマノミクスの効果、実践法、データなどが豊富な良著だ。過去数回、 インスティチューショナルインベスターズ アナリストランキングにて日本株式投資戦略部門で1位を獲得。2014年にはBloomberg Marketsの「50 Most Influential 」の一人に選ばれている。
松井氏自身が男性中心の金融業界で、2児の母として働きながら、なぜ、どうやって取締役会メンバーに上り詰めたかについて語る上で、開口一番「実は昇進を進められた時に、人のマネジメントは面倒だと思った」と率直な言葉で笑いを誘った。とはいえ松井氏が昇進のオファーを受け、迷っていた時に心を動かされた言葉は「いつも使っている筋肉と違う筋肉を鍛えなさい」だった。はたと、そうだ、昇進することで自分は成長し続けられる、と気づいた。ひいては企業の取締役会に入るということは、トップの方向性、戦略、決定に直接的に関与できる。
数々の取材を受ける松井氏は、メディアに注文を付ける。「管理職を打診され断るという女性が多い、といった数字だけを報道して強調しないでください。管理職になったらどんな楽しいことがあるのか、どう楽しめるのか、といった声を拾ってください」という言葉は、まさに報道と隣り合わせのPR会社勤務の筆者の心に響いた。
女性役員、女性起業家、女性リーダー、エシカル消費にZ層もLGBTQも
それからブレークアウトルームでの交流、各分科会からの共有などを経て、最後に吉田氏のメモリアルビデオを鑑賞。力強く、人生を切り拓き、女性を力づけ、世界をリードした吉田氏の生き生きとした姿、心を動かす言葉に、誰もが涙した。生前にお会いすることはできなかったが、吉田氏がこれだけの人を引っ張ってきたからこそ、今ここでつながることができた。すべてには意味がある、と新たな出会いに感謝した。
3時間にわたるオンラインイベントの締め括りに、HYMEC代表の塚原月子氏は、「最後まで残ってくださった方には男性もいらっしゃいます。女性だけでなくLGBTQ、障害を持つ方、あらゆる多様な方がともにつながり、世の中を良くする晴乃さんの意志を継いでいきましょう」と述べた。
なお、7月10日(土)19時~20時30分には、女性ヤングリーダー主催イベント「トップを目指すべき理由とは?トップ層の女性と対話を通じて考える」も予定されている。
また、HYMEC吉田晴乃記念の次のイベントも9月4日(土)に開催予定だ。
女性はもちろん、あらゆる人が、視野を広げ勇気を持ち、未来を明るくするきっかけとしてはいかがだろうか。