求めているのは接客ですか?〜スカイマークの新たなる試み〜
»
LCC(低価格航空会社)が空を賑わしている。LCCとはローコストキャリア(Low-Cost Carrier)の略だ。過去までの航空会社とは一線を画している。
日本ではLCCのパイオニアと言ってもいいだろうスカイマークが面白い試みをしている。
座席に一枚の紙を置いていると言うのだ。そこには「スカイマーク・サービスコンセプト」題し、以下のことが書かれている。
1,お客様の荷物はお客様の責任において収納をお願いいたします。客室乗務員は収納の援助をいたしません。2,お客様に対しては従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けておりません。客室乗務員の裁量に任せております。安全管理のために時には厳しい口調で注意をすることもあります。3,客室乗務員のヘアメイクやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」にしております。4,客室乗務員の服装については会社支給のポロシャツまたはウィンドブレーカーの着用だけを義務付けており、それ以外は「自由」にしております。5,客室乗務員の私語等について苦情を頂くことがありますが、客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置付けております。お客様に直接関わりのない苦情についてはお受けいたしかねます。6,幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません。航空機とは密封された空間でさまざまなお客様が乗っている乗り物であることをご理解の上で搭乗いただきますようお願いします。7,地上係員の説明と異なる内容のことをお願いすることがありますが、そのような場合は客室乗務員の指示に従っていただきます。8,機内での苦情は一切受け付けません。ご理解いただけないお客様には定時運行順守のため退出いただきます。ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします。※記事作成後、内容の一部変更があるとニュースで報じられたため、追記します。『スカイマークの接客指針に、行政からも"苦情" 』「消費者センターへ」という所が問題としてあげられたようだ。確かに苦情は自社で完結するべきだと、筆者も思う。その他の文章がどう変わるかは分からないが「基本部分は変えて欲しくないなぁ」などと、自分と直接関わりのないところで、好き勝手なことを言っている筆者です。2012/06/07追記
と、主に客室乗務員の対応について書かれている。
コレを読んでの感想は人それぞれだろうが、筆者はこの取り組みに大いなる賞賛を送りたい。
最初に書いたが、LCCとは読んで字の如くローコストを表している。交通手段として以外の無駄なコストを削減し、低価格を実現しているのだ。
色々なことでコストダウンをしているLCCだが、筆者はコンビニという商売上、注目しているのは接客サービスのコストダウンについてだ。
筆者は事あるごとに「サービス有料説」を唱えてきた。
それは、接客においても同じ事なのだ。例えば「笑顔の挨拶」。これだけでも、徹底するのには膨大な教育コストがかかる。「えっ、笑顔を出すだけで時間がかかるって?」と、疑問に思うかもしれないが、それが事実だ。簡単にできるようならコンビニ従業員全員が笑顔の接客をしている。そうでないことは、読者の皆様が体験済みだろう。しかも教育だけではない。採用段階からコストがかかっていると言っていいだろう。
高品質なサービス提供で知られているホテル「ザ・リッツ・カールトン」、日本支社長を務めた高野登氏は著書「リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間」の中で、社員採用についてこう書いている。
技術は訓練できてもパーソナリティは教育できない
これは、リッツ・カールトンが採用基準として、サービスに関する技術や知識より、性格や価値観を重んじているということだ。挨拶の仕方やお客様への接し方などは訓練でできるようになるが、本物の「笑顔の挨拶」は、個人が生まれ育った環境下において養われるものなので教育では実現できないとしている。
では、そのパーソナルティを持った人材を探すのには多くのコストがかかる。何人もの人と面接する必要があるだろう。それだけでもコストがかかる事が分かる。
コンビニの時給をご存知だろうか。言っては何だが、バイトとしては最低Rankに属する時給だ。人件費にコストを掛けることが出来ない利益構造なのだ。それなのに本部の糞野郎どもは「接客を強化していきましょう」などと、ヘラヘラ言ってくる。本部は全く接客を理解していない。
それでも、バイト達は頑張って接客をしてくれている。最高レベルとは言えないが、精一杯の笑顔を振りまいてくれている。しかし、これがイケなかったのだろう。
日本人は、今まで良い接客を受けすぎた。
ファーストフードの「スマイル0円」から、サービス業では無い業種まである程度の接客サービスが提供されている。だが、サービス業でない業態へ挨拶のことをとやかく言うのは違うと思う。
勘違いしないでもらいたいが、スカイマークは粗暴な接客をするとは言っていないし、筆者も接客サービスをないがしろにしている訳ではない。接客サービスを提供する目的ではない業態に"高品質な接客サービス"を求めることは違うと言っているのだ。
スカイマークは、その膨大にかかる採用・教育コストを排除するため、客室乗務員を「保安要員」と位置付けたのだ。それは人件費の単価を抑えることであり、それにより低価格運行を実現したのだろう。
しかし、それを周知しなければ、クレーム対応という別のコストがかさむため、座席に文章を設置するに至ったと推測する。
接客レベルというものは変化する。
それは、お客様の接客に対する要望が常に変化しているからだ。最初は、全店員が挨拶することに良しとした。ところが、笑顔が必要になり、日常会話が必要になってきた。少し前から、コンビニの挨拶に「いらっしゃいませ」に「こんにちは(こんばんは)」が足されていることに気が付いているだろう。
知りもしない店員に「こんにちは」とか言われて、変な気持ちにはならなかっただろうか。どう考えても心がこもっていない挨拶に、筆者は違和感を覚える。でも、それを良しとしているお客さんがいるのも事実だ。
冷静に考えてもらいたい。「こんにちは」と言われることが良い接客なのだろうか?いや、それが目的の達成基準なのだろうか?低コスト航空を乗ることの目的は何であるのか?コンビニに買い物に来る目的は何なのだろうか?それが良い接客を受けるためだと言う人は多くはないはずだ。
同じ品質のモノを購入するならば、接客の良い所の方が満足する。
それはもっともな話だ。しかし、コストを伴わない無意味なサービスを求め過ぎれば、いずれ破綻する。状況は違うが、ゴールデンウィークの悲劇が生まれたのも、焼肉店の食中毒事件を起こしたのも、目的外(目的以上)のサービスを求め過ぎた結果の事例だと筆者は考えている。
5年前になるが、筆者が大阪のリッツ・カールトンに初めて行った時のことだ。チェックインの際、ある書面にサインをさせられた。内容を要約すると「ホテルにそぐわない方は宿泊契約期間中でも退出してもらう」ことに同意する書面だ。
接客の研究をするために選んだホテルだったので、前情報として得ていたから何の気にもせずサインしたが、「あ〜だけどこれって日本では、特殊な対応だろうなぁ」って感じた。現在でもやっているかは分からないが、今回のスカイマークの対応を見て、その時のことを思い出した。
4泊した筆者だが、とても贅沢なホテル生活を送れた。その時、「日本人はそろそろ本当の意味での"満足な接客"を体験する必要がありそうだ」と、思った。
それは、今回記した接客とは全く別のモノであるからだ。その話は、又の機会にしたい。
SpecialPR