【ブックトーク】金銭ではなく“琴線”に触れる社会へ/『ソーシャルシフト』
ちょっと前に参加した東京朝活読書会(エビカツ読書会)での「ツンドクブ」をきっかけとして、どこかで再読しようと思っていた『ソーシャルシフト』。その時は時間が足りずに(正味20-30分ほど)概要の概要を把握する位で終わったのですが、子どもが宿題を片付けているのを横目に、ふと思い立って手にとってみました。
『ソーシャルシフト』(斉藤徹/日本経済新聞出版社)
せっかくなので、佐藤さんが『読書の技法』でおっしゃっていた「速読(30-60分)」にチャレンジしようと、30分1本勝負を目標にスタート。300ページを越えるボリュームのため、30分でとなると一言一句を追うわけにはいかず、見開きページ単位で俯瞰&気になった所にマーキングしながら追いかけてみました。
入り方は「ツンドクブ」の時と同じく「ソーシャルメディアを情報基盤として捉えた場合の、社会的、個人的な位置づけは?」との情報のキュレーターとしての視座から。そして問題意識は「ソーシャルメディアが広がった背景とこれからでてくるであろう社会的な問題」、「情報発信が双方向に行われるようになっていることと、その課題」、「今後のビジネス組織のあり様の変化」とこれも変わらずに。
副題の「これからの企業にとって一番大切なこと」というのが示すように、企業と社会、そしてそこに生きる人々の“パラダイムシフト”について、豊富な事例と共に丁寧にまとめられていました。
今までの企業は上から下への垂直な統制志向型が主流ですが、今後は立場上では対等で強者も弱者もない、お互いに足りないものを補完しあうように“シフト”していくだろうと。同じことができるメンバーを集めてれば(もしくは教育すれば)よかった時代は終わり、“共感しあった目的”に向かってそれぞれの強みを持ち寄るといったイメージでしょうか。
これは集合知とも言われる概念で、『ワーク・シフト』では“ポッセ”との言葉で表現されています。
今まで、権力を握るためのポイントとされていたのは「富」「暴力」「知識(情報)」で、これらは上層に行かないと手に入らないものでしたが、、これからは「共感」という心の深奥に響く要素が一番必要とされるようになり、それは組織の上層部でなくても手に入るようになってきた、と。そしてその世界を導き出したのは、個人同士の緩やかなつながりを推奨する“ソーシャルメディア”と位置付けています。
今後、この“ソーシャルメディア”で共感される企業になるための5つのポイントは、、
1.社会に対する自社の付加価値を見直すこと
2.顧客に対する貢献姿勢を明確にすること
3.信頼される企業になること
4.生活者と同じ目線で対話交流をすること
5.社会に対する貢献姿勢を明確にすること
としていて、企業を“ソーシャルシフト”させていく6つのステップは、以下としています。
step1.プロジェクトのコアをカタチづくる
step2.ブランドコンセプトを練り上げる
step3.すべての顧客接点を改善する
step4.オープンに対話できる場をつくる
step5.顧客の声を傾聴する仕組みを構築する
step6.社員の幸せと顧客の感動を尊ぶ社風を育む
文中で何度か出てきますが、これからは「透明性の時代」で、“社会性”を意識していかないと生き残っていくのは難しくなっていくのでしょう、企業も人も。人間は本来「社会」から切り離されては「人」としては生きていけない社会性の強い動物です。そういった意味では、原点回帰とも見てとる事ができましょうか。
もう一つ興味深かったのが、終盤で“日本の原点に戻り、日本人としての誇りを取り戻そう”と話されている点。これは戦後レジームの中で日本人が半ば強制的に忘れさせられてしまった「国のかたち(国体)」のことと思います。ちょうど並行して読んでいた『日本人はいつ日本が好きになったのか』とリンクして、不思議な縁を感じました。
出版されたのはちょっと前の2011年11月、ケーススタディとしてあげられている事例こそ古いものの、根っこに横たわる概念は今まさしくの時代を投影していると、思います。『ワーク・シフト』や『未来の働き方を考えよう』、『2022 - これから10年、活躍できる人の条件』あたりともシンクロして、興味深く拝読できました。今回の速読では事例は流し読みでしたので、折々で読み返してみようと思います。
また個人的な見解となりますが、戦後日本が変わったターニングポイントは「東日本大震災」であった、これを機に“戦後”が終わり、戦後レジームからの脱却がはかられたと、後世に言われるようになると感じています。
ん、企業が生き残っていくためのヒントだけではなく、日本人が「大きな物語」を取り戻していくには、なんてところまで考えさせてくれた、そんな一冊です。
【あわせて読んでみたい、かもな一冊。】
『日本人はいつ日本が好きになったのか』(竹田恒泰/PHP新書)
『ワーク・シフト』(リンダ・グラットン/プレジデント社)
『未来の働き方を考えよう』(ちきりん/文藝春秋)
『2022 - これから10年、活躍できる人の条件』(神田昌典/PHPビジネス新書)
『ハーバード白熱日本史教室』(北川智子/新潮新書)
【補足】
これとは別に、広義での「情報」に困った人が、まず訪れるのはどこだろう、、いや、どこであるべきか、というのを考えて、実現していけるようになりたいかな、私見では地域に密着した“図書館”がその任を背負うべきと思っています、、欧米のように。