原子力論考(117)マスコミの存在意義はどこにある?(後編)
前回(原子力論考(116)マスコミの存在意義はどこにある?(前編))の続きです。
マスコミには専門家がおらず、トンチンカンなことを言っているのに一般の人は信じてしまう、という構造的な問題が一番悪い方向に流れたのが原発問題ではないか、という話が出たところで引き続き山森さんのお話を伺いました。
開米 : 悪い方向というのはたとえば?
山森 : いまだに福島県で放射線障害が起きると警告をしたり、福島産食材は食うなとかそういう声がはびこっているのは、一部マスコミに極めて大きな責任があると思います。マスコミの看板で流れる情報を信じちゃう人が大勢いるんだから、正しい情報を流すようにしなきゃいけないのに、率先してデマを広めまくるんだからもう腹が立ってしょうがないです。
開米 : 最近も、福島で甲状腺がんが増えているとかデマを飛ばした報道番組がありましたね(報道ステーション2014年3月11日放送分)。鼻血が出るとか書くグルメ漫画もありましたし、それを平然と載せる雑誌とかも・・・・彼らはなぜあんなデマを平然と流せるんでしょうか?
山森 : 彼らがああいうデマを流してしまう理由は3つあると思います。1つは、不勉強だからそれがデマだとわからない、ということ。2つめは、危険だという話のほうが売れるから。3つめは、ある種の偏ったプライドがありそうです。
開米 : 偏ったプライド?
山森 : たとえばですね、政府批判をすることが社是になっているようなところがあるんですよ。とにかく政府のやることはダメなこと、として批判しておけば間違いない、みたいな。政府がいかにダメかを一般大衆に伝えるのが我々マスコミの高貴な役割だ、みたいな。
開米 : 確かにありますね、それは。
山森 : そして自民党が政府と一体化していた時期が長かったので、政府批判はイコール自民党批判でした。実際、私はある選挙の時に上司に「お前どこに投票したんだ?」としつここく聞かれたもので、仕方なく「自民党です」と答えたら、彼は「なんだって?! 山森の奴、自民党なんかに投票したんだってよ? 信じられねえ奴だな」と局内に大声で触れ回ったことがありました。「自民党に投票するなんてあり得ない」というそういう感覚を堂々と局内で公言して何も疑問に思わない、そういう体質があったわけです。
開米 : なるほど・・・・それじゃあ、言論の自由を語るマスコミの内部には言論の自由がない状態ですね。椿事件を思い出させます。
山森 : そうなんですよ。
開米 : 理想を言うならば、ですが、マスコミは本来どんな役割を果たすべきだったんでしょうか?
山森 : 原発事故に関して言うならば、事故が起こったことによって、シーベルトだベクレルだセシウムだヨウ素だと、一般の人には聞き慣れない専門用語が飛び交うようになりました。普通の人がそんなものに詳しいわけはないので、きちんとした専門家の話を聞いた上で、それを普通の人にわかるように要約して、正しい要旨を伝えることが、こうした危機的状況における本来の役割だったんじゃないでしょうか。
開米 : 現実にはマスコミが危機を拡大させてしまいましたね・・・・
山森 : その通りです。
開米 : マスコミがこれからそうした理想的な姿になることは可能でしょうか?
山森 : うーん・・・正直あまり期待できないと思います。それよりはインターネットでマスコミ抜きに情報が広まるようになりましたので、マスコミがおかしな報道をしてもそれがすぐに検証されるというほうに期待したいです。
開米 : それは・・・マスコミの害悪を一般社会人のネットで食い止めよう、というような話ですね。
山森 : そうなりますね。
開米 : わかりました! 私もそうあるべきだと思います。
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