【図解】コレ1枚でわかるデジタル人材育成の3つのシナリオ
「目的」と「あるべき姿」を前提に、次の3つのシナリオを考えてみました。
実践リーダーの育成:
【目的】事業戦略の変革や新規事業の開発を推進、加速させるため。
【あるべき姿】
- 経営や事業の現状を俯瞰、整理して、課題と原因を定義できる。
- 経営者や事業部門が示した課題を考察し、課題の精緻化や明確化ができる。
- ITやデジダル・ビジネス・モデルについての広範な知見を有している。
- ITについての知見を生かして、事業課題を解決する戦略を描ける。
- 描いた戦略の実践を主導、または事業責任者の伴走者として支援できる。
【対象者】選抜社員
常識と世論の醸成:
【目的】変革に前向きな社内世論を形成し、実践のスピードを加速するため
【あるべき姿】
- ITとその活用方法についての基本的な知識を有している。
- ITが、自分たちの業務とどう関わり、役立っているのかを知っている。
- 最新の動向を知り、これを活用することへの抵抗がなく、実践リーダーの取り組みを現場で支援できる。
【対象】全社員
実用スキルの習得:
【目的】業務の効率化や改善を加速するため
【あるべき姿】
- 新しいデジタル・ツールを試してみることへの抵抗がない。
- 実務の現場での効率化や改善に役立つツールを使いこなせる。
- 実務経験を活かして、ツールの活用範囲を拡げることや、新たなツールの発掘に貢献できる。
【対象】全社員(実務の必要に応じて)
コラム:リスキリングとデジタル人材の育成
「リスキリング」という言葉を目にする機会が増えています。一方で、「DX研修」や「デジタル・リテラシー研修」も注目をされるようになりました。しかし、これらの関係を曖昧なままに、「リスキリング研修」という言葉が使われることがあります。
「リスキリング」とは、「異なる業務や職業に就くために、必要なスキルを獲得させること」です。
この言葉は、2018年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で取り上げられたことがきっかけとなって、注目されるようになりました。この年のダボス会議の中で、8,000万件の仕事が消滅し、9,700万件の新たな仕事が数年の内に生まれるとの予測が報告されました。そして、今後新たに生まれる仕事につくには、いまのスキルではできないので、社会全体でリスキリングに取り組む必要があるとの提言がなされたのです。
このことからも分かるとおり、「リスキリング」は、いまの仕事に必要なスキルを磨くことではなく、これから生まれる新しい仕事に適応できる新しいスキルを獲得することを目指すものです。
昨今、データ活用や新しいITツール、クラウド・サービスの使い方を学ぶ研修を「リスキリング」研修と称しているところもありますが、これは必ずしも正しい使い方ではありません。これら研修の多くは、既存の仕事の改善を目的とするものであり、新しい仕事に対処するための能力を獲得する「リスキリング」ではありません。「リスキリング」と称するには、まずは、「新しい仕事」を用意して、そこに移動することを前提にしなくてはなりません。
もちろん、いまの仕事の効率化や改善は必要ですし、変革を主導するリーダーシップを育むことも必要です。このような研修は、3つの人材育成のシナリオが担う話しです。「リスキリング」は、これとは違います。経営戦略あるいは事業変革の一環として取り組むもので、対象とする人材に、異動や職種変更を前提に、職務として、会社がうけさせる研修です。
3つの人材育成のシナリオは、個人の自発的な好奇心、改善、成長の意欲を頼りに、学びの機会を与えるために行います。目的は、人材の質を高めることで、デジタル時代にそぐわない古い知識やスキルを時代に即したものへとアップデートすることです。つまり、個人のスキル強化や知識のアップデートであり、現場改善や変革リーダーの育成が目的です。
一方、「リスキリング」は、事業転換が目的です。配置転換、新会社への出向や転籍、職種変更といった人事施策が、前提として用意されていて、そんな新しい職場で必要とされるスキルを獲得することを目指します。
ある大手自動車部品メーカーの「リスキリング研修」をお手伝いさせて頂いたことがあります。研修の目的は、ハードウェア・エンジニアを、ソフトウエア・エンジニアへと転換することが目的です。この会社は、自動車部品が商品ですから、ハードウェア・エンジニアが沢山います。しかし、ソフトウェアの役割が拡大する中、ソフトウエア・エンジニアを増やす必要に迫られていました。そのための取り組みとして、実施されたのが「リスキリング研修」です。この研修は、人事施策とも連動し、研修後の新たな配属先も用意されていました。
まだ、進行中の段階ではありますが、うまくいっているそうです。その理由として、ハードとソフトのエンジニアに共通に必要とされる数学や工学についての基本的な素養があるからです。扱う対象が変わっても、エンジニアとしての共通の基礎が土台にあるので、スムーズに転換が進んでいるそうです。
この事例からも分かるとおり、「リスキリング」のための研修と配置転換は、一体です。「個人のスキルアップや現場改善のための研修」と「リスキリングのための研修」は、目指している「目的」も「あるべき姿」も違いますから、施策としても分ける必要があります。