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SI事業者/ITベンダーにとっての人的資本経営の本丸について

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「技術力とは、できるだけコードを書かずに、ITシステムを実現する能力です。」

あるカリスマ・エンジニアの言葉を忘れることができません。

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ITシステムは、作ったことで、目的が達成されるわけではありません。ユーザーが、これを使って、業務の課題を解決できなければ、何の価値も生まれません。ユーザーは、できるだけ早く、この業務課題を解決したいと考えます。

では、どうすれば、「早く」できるかを考えれば、「作らない」ことが最善の方策です。「作らない」ためには、「ありもの」であるSaaSPaaSを使う、あるいは、オープンソースを使うということが考えられます。あるいは、フレームワークを使って、できるだけコードを書かずに作るというやり方もあるでしょう。最近であれば、生成AIを搭載したツールを使い「こんなことをやりたい」と入力すれば、仕様書の作成、コードの生成、テストの実行、ビルドの実行までやってくれます。

冒頭の言葉をユーザーの本音で言い換えるならば、次のようになるでしょう。

「こちらのやりたいことを言えば、直ぐに使えるITサービスを提供してほしい。」

アジャイル開発が、なぜ、これほどまでに普及したかと言えば、まさにこのユーザの本音に答えてくれるからです。

「あなたが言ったことができるプログラムを作ってみました。これでいいですか?」

難解なWordExcel、あるいはPowerPointの仕様書で説明するのではなく、実際に動くプログラムを即座に作ってユーザーに見てもらい、これでいいかどうかを直接確認して、必要とあれば改善点を確認します。そして、直ちに改善し、また新たなプロセスを作って見せて確認をとります。これを1週間のサイクル(イテレーション/反復)で繰り返し、ユーザーとエンジニアが動く現物で確認しながら、「やりたいこと」を一緒になって実現していくことができるからです。

動く現物を見ながらの意思疎通ですから、齟齬はありません。「いるかいらないか分からないけど念のため」や「あったらいいなぁ」は、作りません。本当に必要なプロセスだけを作ります。表現を変えれば、できるだけ作らないようにして、業務の目的を達成するのに必要なコードを書くことに徹するわけです。当然、コストも抑えられ、早く、ユーザーがやりたいことを実現できるわけです。

アジャイル開発は、安く、早く、システムを開発する方法ではありません。結果として、そうなるのですが、手戻りなく、確実に、無駄なくユーザーの期待を実現できるからこそ、アジャイル開発は、普及してきたのです。

ここに、上記のようなツールを使えばどうなるでしょう。例えば、生成AI搭載の開発ツールを使えば、1週間の反復サイクルを2日間にできるかもしれません。あるいは、同じ1週間でも、実装できる機能が格段に増えるでしょう。

こういう仕組みやプロセスを目利きし、実践に活かせる能力こそが、ユーザーが期待する技術力です。

もうひとつ、これからのエンジニアに求められる技術力として、忘れてはいけないことは、「ビジネス翻訳力」とでも言う能力でしょう。

生成AIは、これからMicrosoft Office365Google Workspaceなどのオフィス・ツールに搭載されます。そうなると、「こういうアプリを作って欲しい」をエンジニアに頼まなくても、生成AIが代わりに作ってくれます。あるいは、「こんな帳票を作って欲しい」と手書きで、そのイメージを書いて写真に撮り、生成AIに取り込めば、そのためのプログラム・コードを生成してくれます。もはや、「プログラム・コードを書く」という知的力仕事は、いらなくなるわけです。

しかし、こういう仕組みがうまく使える仕組みを作ることは、人間にしかできません。ビジネスの現場を徹底して観察し、効率よく効果的に仕事をこなせる仕組みを考え、これを実装できるのは、生身の人間にしかできません。

また、最新の技術動向を理解した上で、これらを前提にしたときに、業務の仕組みをどのように作り得ればいいのかを考えることや、新たな事業戦略や施策を考える時のアドバイザーとしての役割は、人間にしかできません。

そのためには、業務の言葉、経営の言葉、マーケティングの言葉と技術の言葉を相互に往き来できる「ビジネス翻訳力」が必要になるのです。当然ながら、ビジネスの言葉を技術の言葉に置き換えたあとは、いまの技術に照らして、どのような組合せやプロセスを実現すればいいのか、どのようにこれを実装し、使えるようにするのか、そして、ツールを駆使して、これを実装しなければなりません。これもまた、人間でなければできないことです。

「技術力とは、できるだけコードを書かずに、ITシステムを実現する能力」

これを身につけて、

「やりたいことを言えば、直ぐに使えるITサービスを提供してくれる」

そんなエンジニアを目指してはどうでしょう。

SI事業者やITベンダーにとって急務なのは、このような人材に育てることだと思います。そのための投資が、事業を継続し、生き残るための唯一の方策ではないでしょうか。

今週、「人的資本経営」について書いてきましたが、まさにこれこそが、SI事業者やITベンダーの人的資本経営の本丸ではないかと思います。焦る必要はありません。でも急がなければ、ならないことは確かです。

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ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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