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「お米」として生きるか「お茶碗」として生きるか/プロとは何かと人的資本経営

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お米のご飯は、他の人たちと分けて食べることができますが、ご飯を入れているお茶碗は、分けることができません。お米のご飯の値段は、市場の相場で決まってしまいますが、お茶碗の値段は、それを必要とする人の評価によって決まります。自分は、「お米」でしょうか。それとも、「お茶碗」でしょうか。

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「人月工数」ビジネスは、「お米」であり、「人的資源(human resource)」として、人材を捉えています。人材を商品/サービスの構成要素の一部として、コストと見做す考え方です。消費すれば調達して補えばいいということになります。基本的能力を有し、標準的、常識的レベルの仕事をこなせる人たちを増やすことで、収益の拡大を目指します。

一方、「技術力」ビジネスは、「お茶碗」であり、「人的資本(human capital)」として、人材を捉えています。人材が価値を生みだす源泉と捉え、その価値を高めるための投資を行い、高額であっても、是非とも手に入れたいと思ってもらえる人材を増やすことを目指します。それぞれの専門分野で飛び抜けた能力を発揮できる少数精鋭であり、ひとり一人の価値を高めることで、収益の拡大を目指します。

前者は、優れた素人、後者はプロのビジネスと言えるかもしれません。素人とプロのわかりやすい違いは、会社以外で価値を認められるかどうかです。

素人は、自分の会社の仕事をきっちりとこなせる存在です。その能力が高ければ、自分が所属する会社では、役職も高く、権限を持っていて、まわりも従ってくれるでしょう。しかし、社外に出れば、そんなことは関係がなく、普通の人として受け止められます。

一方、プロは、会社を越えて、名前で知られている存在です。その人個人の能力によって高く評価される特別の人として、受け止められています。その人が所属する会社の名前や役職ではなく、その名前を持つ個人が、特別な存在になるのです。

両者に優劣を付ける必要はありません。どちらか片方だけで、企業が成り立つとも思えません。ただ、自分はどちらの立場にいるのか、あるいは、いたいのかは考えておいてもいいかもしれません。

企業経営の立場で捉えれば、前者に重きを置き、組織全体で同じ方向に向かって一丸となって事業を進めようとするのが、「人的資源経営」です。一方、後者に重きを置き、ひとり一人の能力や個性を適材適所に当てはめて、トータルとして、事業全体の価値を高めようというのが、「人的資本経営」です。

いまなぜ後者に関心が高まっているのかと言えば、大きな3つの社会環境の変化が背景にあります。

1つは、VUCAという言葉に象徴される「将来を予測することができない社会」の到来です。いつ何が起きるか、世の中がどうなるかを、長期的な視点で予測できないことです。例えば、AIを使った開発ツールの登場は、一年前ならその予兆が、田舎の道路脇に見え始めたばかりでしたが、あっという間に高速道路そのものになってしまいました。コロナ禍やウクライナ戦争も然りです。誰がこの事態を予測できたでしょうか。

そんな時代であればこそ、それぞれの分野での知性や感性が高く、その分野の予言者的な予知能力を持つ人が、最前線に立ってそのセンサーを働かせ、進むべき道を示していく必要があるのです。普通の人たちだけが沢山集まって、喧々囂々と議論して、時間をかけて体制を整えて、いざ出陣では、チャンスを逃してしまいます。だからこそ、適材適所で能力の高い個人を置き、直ちに対処できる能力を持たなくてはなりません。

2つ目は、商品やサービスのライフタイムの短縮です。上記とも深く関わることですが、情報の広範な波及力と伝達速度の高速化と相まって、流行り廃れのサイクルが著しく短くなっています。これに同期して、商品やサービスをいち早く、タイミング良く提供、あるいは改善できなければ、ビジネスの機会を失います。やはりこちらも前者同様に、優れた能力を持つ個人に権限を与え、圧倒的なビジネス・スピードを生みだすことが、必要になります。

3つ目は、人材の流動化です。いまや新卒社員のどれだけの人が、「一生この会社のお世話になる」覚悟で入社するのでしょうか。先ずそんな人はいないはずです。昔であれば、就社が当たり前でした。社内での経験を積ませ、いろいろな部署を経験して、役職を登り、定年で上がりとなることを当たり前とする考え方です。この前提があるからこそ、丁寧な人材の育成や家族的経営による一体感、初任給は安いけど、年功序列で徐々に給与も上がり、退職金で報われる終身雇用が当たり前でした。もはや、そんな雇用慣行は、成り立ちません。

それぞれが、自分の個性や特長を活かし、その能力を最大限に発揮できる環境を提供し、この会社で働くことが自分の成長にとって価値ある存在になると評価されなければ、優秀な人材は集まりません。少子高齢化と相まって、会社が社員を選び採用するのではなく、会社が選ばれる魅力を持たなければ、経営を維持できない時代になったのです。

特に、Z世代と言われる人たちは、給与水準だけで会社を評価することはありません。社会への貢献やその会社の存在意義、そして、自分の成長の機会が提供されるかどうかが、会社を選ぶ基準として、重視されます。

このような理由から、「人的資本経営」は、企業経営にとっての重要性を増しています。

ITビジネスを見れば、そんな時代の潮流の最先端に位置しています。その変化がどれほど大きなインパクトを与えるかについては、こちら記事をご覧下さい。だからこそ、「人的資本経営」について、真摯に向き合うことが、一層大切であろうかと思います。

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斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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