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個人の学びを組織の学びに変える3つのステップ

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心理学においては、「学習とは人間や動物が過去の経験によって行動様式に永続的な変化が生じ、環境に対する適応の範囲を広げていく過程」という意味で用いられます。例え、知識を得ても行動を起こさなければ、学習することにはなりません。学習ができなければ、社会の変化に適応できずに、生存の危機に陥ることになります。

講義や講演の機会をしても、それを行動に移すところには関われないもどかしさがあります。だからこそ、講義や講演では、行動すること、あるいは、些細なことでも始めることの大切さを力説します。しかし、その成果を見届けられないことは、致し方ないとは言え、残念で仕方がありません。

中には、私の話を聞いて、個人として行動を起こしてはみたものの、その学びを発言しにくい組織の風土があるとの嘆きはよく聞きます。有志の勉強会に留まり、組織的行動にならないという話しも少なくありません。なかには、上司から、仕事に差し障りがあるから、ほどほどにと言われることもあるといいます。これでは、せっかくの個人の学びが、組織の学びになりません。

組織が意志を持つことはなく、組織が勝手に学ぶこともありません。組織の成員たる個人が学び、それが積極的に議論され、組織に取り込まれて、組織の学びになります。

そんな組織の学びには、次の3つのステップが、必要です。

知る:自分たちの常識が、どれほど世の中の非常識であるかを知る機会を得て、「現実(as is)」と「あるべき姿(to be)」とのギャップを、個人が明確に認識すること。このギャップが「課題」です。

行動する:個人の意識した「課題」を組織で議論し、組織の「課題」として共有し、課題解決の方法を明確にします。この「課題解決の方法」が「ソリューション」です。ちなみに「ソリューション」とは、IT製品やITサービスのことではありません。それが含まれることはありますが、ルールや組織・体制、習慣や暗黙の了解を変えることなども含まれます。

定着させる:そんな「ソリューション」を行動に移し、試行錯誤して、自分たちにとっての最適なやり方を見つけ出して、日常の意識や行動に埋め込むことです。それをルールや制度にすることも1つの手段です。これが、組織の学びであり、定着し行動習慣に変われば、組織の学びとなります。

自分たちの常識と世の中の常識のギャップを知ることは、講義や講演が、手段のひとつになりますが、組織として共有するには、経営者や管理職の積極的な関与が必要です。

「うちの社員は、いくら研修をしても、行動しない」

そう嘆く経営者や管理職もいますが、議論できる場や空気を作る努力を怠っている自分たちに、その原因であることに気付くべきでしょう。

こういう企業に共通するのは、心理的安全性の欠如です。

「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」

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  • 周囲の反応に怯えたり、羞恥心を感じたりすることなく、自分自身が自然な状態でいられる環境があること。
  • 組織内で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態があること。
  • このチーム内では、メンバーの発言や指摘によって人間関係の悪化を招くことがないという安心感が共有されていること。

上記のような心理的安全性がない組織では、「組織の常識」に反するような発言は、なかなかできず、個人の学びが、組織の学びになりません。

結局、暗黙の了解やいつものやり方、体面や組織の調和が優先され、世の中の変化に取り残されてしまいます。これが累積し、やがては外部からの批判や事故、優秀な人材の流失といった「見えるカタチでの痛み」となって、これではマズイという空気が拡がります。そうなってやっと経営者が重い腰を上げる。そんなことを延々と繰り返していれば、ますます世の中の変化から取り残されてしまいます。

「知る」機会を作ることは容易ですが、同時に「行動する」場を作らなければ、「定着させる」ことはできません。そういう企業の風土や文化を育ててゆくのは、経営者や管理職の大切な役割であることは、言うまでもありません。

2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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