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「思考停止」を助長しておきながら、これを何とかしたいという経営者の自己矛盾

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「相手からの指示を待って、それに従うことしかできません。もっと、積極的にこちらから仕掛け、提案できる人材を育てたいと思っています。どうすればいいのでしょうか。」

SI事業者の経営者から、愚痴とも相談ともつかない話しを聞いた。このような話しは、彼だけではない。他の多くの方からも同様の話しを聞くにつけ、これは、個人の資質やある企業の個別の問題ではなく、この業界の本質的な問題としてとらえるべきことなのかもしれないと感じている。

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現在、我々を取り巻く環境は、膨大な情報にあふれている。ITについて言えば、情報量の多さもさることながら、その新陳代謝も速く、その組合せの多様さと複雑さが指数関数的に増え続けている。

この状況に「思考停止」という方法によって対応し、自分の身を守ろうとしているヒトたちがいるのではないかと思う。結果として、そういうヒトは、他の人に思考と意志決定を委ね指示待ち人間となる。

「思考停止」は、リスク回避も冗長する。例えば、セキュリティ対策と称して「少しでも心配であればその原因や利便性を損なわない対処方法を考えずに禁止する」対策(?)などは、その典型であろう。また、ある人の意見に無批判に従い「その人の言うことなら何でも従う」といった依存志向も同様の背景がある。ネットを見れば、そういうヒトたちが徒党を組み、自分の考えで意見を述べるのではなく、「彼がそう言っているから正しい」と他者を攻撃している。会社の中に、もしそんな状況があるとすれば、「思考停止」人間が増えているのではと疑ってみるべきかもしれない。

「思考停止」を続ければ、不安が醸成される。自分が身体で感じていることとの矛盾、未来を見通せないことへの焦燥、自分の意志を示せない鬱積などが心の重石となって不安をかき立てる。それが、メンタル問題の原因にもなっているのではないか。

この状況に対する解決策は、「情報過多」の本質を突き詰めてゆくことで、見えてくるかもしれない。

あらためて、いまの「情報過多」の現状を考えてみると、確かに物量としての情報はネットメディアの普及とも相まって爆発的に増大をしているが、それら情報の多くは重複している。むしろ、ネットメディアは積極的に重複させることで情報を増幅し、情報の多さを誇示することで自らの存在をアピールすることを競い合っている。それが、悪いというのではなく、それはネットメディアとしての生き残りの戦略であり、彼らのエコシステムなのだ。私たちは、その現実を理解し、正しく利用すればいい。まとめサイトやニュースのピックアップサイトが人気なのは、そんな現実に対処しようとする人々が少なくはないことを意味しているのだろう。

つまり、「情報過多」とは物量のことであり、本質的な価値をもたらす範囲や意味は、もっと狭いことを理解しておくべきだ。その物量を生みだしている本質あるいは本流を見つけ出せば、「情報過多」に翻弄されることはない。

私が取り組んでいる「コレ1枚シリーズ」や「ITソリューション塾」は、ITに関わる沢山の情報の中から、枝葉を取り除いて幹を露わにし、「歴史という時間時軸」と「お互いの関係」という2つの視点で体系的に整理している。この取り組みを通じて、テクノロジーの本質や本流、すなわちトレンドを伝えようとしている。そして、ビジネスにどのような変化や価値をもたらすのかという視点で解釈しようともしている。言うなれば、本質的価値を損なうことなく重複するものを排除し情報圧縮を試みようという取り組みだ。

本質、本流たるトレンドが分かれば、それが情報のフィルターとなり、あるいはフレームワークとなって、様々な情報をより分け整理してくれる。情報過多という表面的な物量に惑わされることなく、本質が圧縮されて整理されてゆく。また、未来に向けた一本の道筋が見えてくる。そうなれば、それに従えばいい。「思考停止」への有効な対策になるだろう。

ところが、現実には、なかなかそう簡単ではない。そういうトレンドに目を背けようとしているヒトが現実には多いように思う。その理由は、そういうトレンドを知ることは、これまで築いてきた事業資産や自分自身の存在価値を放棄してしまうことになるかも知れないという不安があるからだ。そして、薄々は気付いていても積極的に「思考停止」することで、自らを守ろうとしているのではないか。

思考停止しようが、積極的にトレンドに食らいつこうが、これまでの常識を大きく変えてしまうトレンドは存在する。それを「情報過多」なので正しい判断が難しいからと決定を先送りするヒトたちが多い。まさに思考停止に伴うリスク回避志向、あるいは、指示待ち志向であり、誰かが「こと」を始めるのを待って行動を起こそうという依存志向にもつながっている。

ITのトレンドがこれほどまでに多様さと複雑さを増してしまったのは、クラウドの普及がきっかけだったと思っている。クラウドはIT活用の低コスト化と資産リスクを回避した。つまり、これまでITを使って何か新しいことをやろうとすると、ハードウェアやソフトウェア・ライセンスを購入しなくてはならず、それを設置・構築し、開発や運用のために多額の人件費を払わなくてはならなかった。それが、クラウドの普及によりIT活用にかかわるコストは大幅に下がり、資産リスクもなくなり、ITを活用してことを始めるコストが激減したわけだ。

そんなクラウドを使った取り組みの全てが成功するわけではない。ほとんどが失敗し、成功はほんの一握りだ。しかし、クラウドのおかげでITに伴う失敗のコストは劇的に下がり、沢山の失敗を容易に繰り返すことができるようになった。失敗が増えれば成功の実数は増える。これがITによるイノベーションを加速し、IT活用の多様化と複雑さを助長している。

この大きなトレンドは、ITで「ビジネスの成果に直接貢献する」ことに向かっている。クラウドや自動化の普及、AIIoTの活用、アジャイル開発やDevOpsといったトレンドの源流は、この言葉に集約される。これまでのように、ITで「ビジネスの成果につながる手段を提供する」こと、つまり製品やライセンスを販売し、開発や運用を請け負うといったビジネスは、難しくなることをこのトレンドは示しているそれを回避する術はない。

そんなトレンドを見ようとせずに「思考停止」で自らを守ろうとしても、来るものは来るのだから、そんなトレンドの本質に積極的に向きあうことで、自らを救うべきではないか。

お客様もそれを求めている。「自分たちの未来のためにITをどのように活かしてゆけばいいか」を知りたいというお客様の期待に応えなくてはならない。つまり、お客様の言うことを訊いて解決策を見つけ出すのではなく、トレンドの本質と本流を踏まえて、いわば上から目線で、お客様の未来、あるいは「あるべき姿」を教えてあげることだ。それこそが提案力の本質であろう。つまり、指示待ちにならず、積極的に仕掛け提案できるようになるとは、ITのトレンドを理解し、そのトレンドに沿ったお客様の未来について夢を語り、そこに至る物語を語れるようになることだ。

これまでのように、何をどうすればいいのかといった正解をお客様から与えられることはない。こちらが正解を示し、お客様と一緒になって実践の筋道を探ってゆこうという取り組みだ。デザイン思考やアジャイル開発が、いまこれほど注目されるのは、そんな背景と不可分だ。

指示待ち人間から積極的に提案を仕掛けられる人間になるためには、テクノロジーのトレンドを学び、本質や本流を考え続けること、そして、そこで得た知識や思想を活かしながら、デザイン思考やアジャイル開発といった「ビジネスの成果に直接貢献する」ための取り組みに関わってゆくことだろう。

もちろん個人として、そんな志を持たなければならないが、経営や事業にこの考え方を取り入れてゆかなければ、やがて時代の潮流に取り残されてしまう。既に優秀な人材が会社を去り、これまでのお得意様を失っているとすれば、それを個別の事情として片付けてしまうのではなく、経営や事業の本質的課題として真摯に向き合うべきだろう。

「積極的にこちらから仕掛け、提案できる人材を育てたい。」

冒頭のこの言葉に対処するためには、経営者がテクノロジーのトレンドに目を背けず、それに向きあう取り組みを推し進めることだ。時代遅れの取り組みに未だこだわり続け、そこで働くヒトたちが、その会社で働き続けようと自らを守るために「思考停止」にさせてしまうようなことをしていて、提案できる人材を育てたいなどと言うのは、おかしなことだ。

望もうと望まざるとに関わらず、「ビジネスの成果に直接貢献する」というトレンドは確実に進む。クラウドや自動化、AIIoT、アジャイル開発やDevOpsなどは、その文脈で読み解いてゆくべきだろう。もし、その流れに乗っていないとすれば、社員は自らを守るために「思考停止」になるか、自らの不安を解消しようと会社を去って行くだろう。

「積極的に提案できない人材がいない」とは、そんな経営の本質的問題なのかもしれない。

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