ポストSIビジネスの選択 3/3
昨日は、ポストSIビジネスは、「ビジネスのスピードとITのスピードの同期化」が牽引力となり、「クラウド・ネイティブ」と「上位レイヤ志向」を拡大することをチャート共に解説した。今日は、そのチャートに掲載した11のビジネスについて解説してゆこう。こちらも、昨日紹介したNTTコミュニケーションズのクラウド・エバンジェリストである林雅之氏の解説を参考に、私なりの知見を交えて描き直した。
クラウド・ネイティブに特化したサービス
本連載の初回でも解説したように「何でもやります」、「何でもできます」は、少なくともクラウド・ビジネスの世界では差別化の要因にはなり得ない。むしろ、積極的に特定のサービスや領域に特化し、その専門性を極め、競争力を担保しようというのがこのサービスだ。
野村総研やアイレットのようにAWSに特化したプロフェッショナル・サービス、ジグソーのようなクラウドに特化し複数のサービスを取り扱い、各クラウド・サービスの窓口として、ニーズにあわせた提案を行うクラウドブローカーなどの「クラウド・プロフェッショナル・サービス」。クラウドの運用に特化した「クラウド・マネージド・サービス」は、クラウド・ネイティブに向かおうとする顧客のスキルや人材の不足を肩代わりし、その需要に応えている。また、「クラウド相互接続サービス」や「SaaS」のようにクラウド・ネイティブのシステム基盤や業務領域を支えるサービスも今後の需要拡大が期待される領域だ。
ビジネス・スピードとITの同期化を支えるサービス
ビジネス・スピードの加速にITが追従するには、システム資源の調達や構築、開発や運用も加速されなくてはならない。それを支える手段として、「専門特化型クラウド・サービス」と「PaaS」が考えられる。「専門特化型クラウド・サービス」として、例えば、IBM/SoftLayerは、金融プロファイル、ゲーム業界プロファイル、SAPグローバル展開プロファイル、CRMプロファイルなど、業務業界に特有のソリューションに最適化された構築・運用のパターンを提供することで、システム構築のスピードを加速し、運用の効率化を図る。また、マーケットプレイスもこのサービスと連携し、調達や構築のスピードを補完する。
また、「PaaS」は、開発や実行環境を提供してくれる。従来であれば、この環境を実現するために多大な労力やコストを必要とし、高い専門スキル求められた。これにより、スピードを担保するだけではなく、最新のテクノロジーを自社のシステムに組み込むこと容易にし、ITの利用価値を高めることかも期待される。
クラウド・ネイティブと従来型を仲介するサービス
技術的な問題ではなく、社内的なレギュレーションやコンプライアンス上の理由から、クラウド・ネイティブに躊躇する企業も少なくない。物理的、地理的にデータの所在や運用実態を把握できなければ心配だという需要は、当面はなくなることはないだろう。そのためのデータセンターやホスティング・サービスが求められている。これが「レギュレーション/コンプライアンス対応型DC/ホスティング・サービス」だ。条件としては、都市型または鉄道の幹線や空港に隣接し交通至便であること。エネルギーコストが低く災害強度に優れていることなどが条件となるだろう。
また、受託開発がなくなることはないが、ビジネス・スピードの加速に追従しなければならない。それを解決する手段として「アジャイル型受託請負開発」が考えられる。これについては、こちらに詳しく記載しているので、ご覧頂きたい。
「クラウド・エネイブルド・マネージド・ホスティング・サービス」は、パブリック・クラウドの提供形態に加えて、管理プラットフォームなどを組み合わせることで、より顧客のニーズに最適化した形にカスタマイズしたサービスだ。パブリック・クラウドのようにユーザー企業が自ら物理的なシステム資産を所有することなく、パブリック・クラウド上に自社専用の利用環境を構築し、運用も含めて提供することで、維持管理や運用の効率化やコスト削減を実現する。
従来型を補完するサービス
SaaSというシステムの利用者は、ユーザー企業の業務関係者だ。しかし、かれらの本来の期待は、システムを使うことではなく、業務目的を達成することだ。例えば、契約書や図面などの文書管理であれば、そのデータをスキャンしてシステムに登録すること、原本を安全に補完することは手段であって目的ではない。ならば、手段に相当する人的な業務も含め、システムと共に丸抱えで提供すれば、顧客の負担は軽減される。つまり、システム提供者が自らシステムを使い、お客様の業務目的を達成するフルサービスを提供すればいい。これが、「SaaS+BPOハイブリッド・サービス」だ。
また、ビジネス・スピードに追従するには内製化が理想的だ。しかし、ユーザー企業にはそれができるスキルも人材もない。そこで、ユーザー企業の内製化を支援する「内製化支援サービス」が考えられる。この取り組みにより外注依存度は全体として減るだろうが、こうやってお客様に新たな価値を提供し、しっかりと食い込むことができれば、むしろ他社は切り捨てられることはあっても、自分達の需要は増えるかもしれない。
さらに比較的規模の小さい企業であれば、ITを利用したくても専門の知識やスキルを持ったCIOやエンジニアがいないことも多い。このような企業に対して、その役割を代行するニーズは存在するだろう。これもまた、内製化支援のひとつのカタチとなる。
以上は、ポストSIビジネスの選択肢であるが、これらをどのように自分達のビジネスに取り込んでゆく化を考えてみてはどうだろう。もちろんこれ以外にも様々なビジネスが考えられるだろう。ただ、「ビジネスとITの同期化」が牽引力となり、「クラウド・ネイティブ」と「上位レイヤ志向」の拡大が進むといった流れは存在する。ここに、自らのビジネスを位置付けて、可能性を探るのもひとつのやり方かもしれない。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン