「ITは難しいもの」という思い込みを少しでもなくしたい
「経営者やビジネスの最前線にいる人たちにITの可能性を知ってもらいたい。」
本書を執筆したのは、こんな動機からだ。
「ITは難しいもの」という思い込みの壁を築き、「おれはITのことは分からないから」で済まされる世の中ではなくなった。それにもかかわらず、未だ、ITを遠ざけている人は少なくない。そう言う人に、もうすこしITの最前線で何が起こっているかを知ってもらえれば、ITはもっと企業の競争力や経営体質の強化に役立てられるはずだ。そんな切っ掛けになればと、本書を執筆した。
実は、「ITは難しいもの」という思い込みを持っている人たちは、「IT企業」と称する「労働力提供会社」にも多い。別にそれが悪いと言いたいわけではない。需要があるからビジネスが生まれ、それを生業とする企業に収益をもたらす。だからこそ、ITサービス産業は、7兆円もの市場規模を持っている。
しかし、この需要が、人工知能やクラウドに置き換えられる「工数の喪失」と、生産年齢人口の減少(15歳〜64歳の年齢が、2015年から2020年の間に341万人減少)という「労働力の喪失」という2つの喪失により、このビジネスの存立基盤が危うくなっている。しかし、そこに関わる人たちが、「ITは難しいもの」と考えているようでは、ITで次のビジネスを生みだす切っ掛けはつかめない。
「ITは難しいもの」と考える理由は、3つある。ひとつは、急速なテクノロジーの多様化だ。かつてとは比べものにならないスピードで様々なテクノロジーや製品が登場しては、消えている。昔、私がIBMで営業をしていた1980年代〜1990年代は、テクノロジーや製品の進化は、とても緩やかだった。メインフレームが主流であった時代は、それこそ主要な新製品など年に一度がせいぜいだっただろう。そんなペースだから誰もが時間をかけて追いかけることができたし、製品登場の物語は一貫しているので理解も容易だった。いまではあり得ない話だ。また、IBMなどの大手ベンダーのロードマップが、トレドを牽引していた。そこを注視していれば、テクノロジーを追いかけることができたが、もはやそう言う時代ではない。
もうひとつは、カタチの見えないテクノロジーや製品が、テクノロジーのイノベーションを大きく支配していることだ。ハードウェアのイノベーションももちろん大きいが、それ以上にソフトウエアやサービスが多様なイノベーションを数多く生みだすようになった。ここには、カタチはなく、一見ではわかりにくい。こんなに小さくなった、こんなに速くなったといったわかりやすい数値尺度だけではない価値が、本質的であったりもする。こういうことも難しいと感じる理由のひとつだろう。
最後は、情報量の多さだ。かつて、ITに関する情報は、メーカーやベンダーがコントロールして提供していた。また、メディアも限られていた。そのため情報の絶対量が少なかった。しかし、いまでは、まだ実用にも達していない段階から「今までの常識を覆すテクノロジー」として、ネットにばらまかれる。ある製品が出れば、複数のメディアが即座にその紹介や憶測を流す。また、比較記事や批判記事も登場する。それを職業メディアだけではなく、個人メディアでも行う。さらに提供する企業は、イベントやセミナー、メディアを駆使して情報を流す。そういう情報が幾重にも折り重なって、私たちに降り注いでくる。難しいと言うよりも、整理されていない混沌が理解を妨げる。
急速な多様化、カタチの喪失、情報の氾濫が、「ITは難しいもの」という思い込みの壁を築き上げている。
これらを俯瞰的、体系的に整理し直すことができれば、ITはもっとわかりやすくなる。そんな思いではじめたのが、ITソリューション塾だ。2009年にはじめたITソリューション塾は、IT企業に勤める人たちに、俯瞰的に整理された情報を、第三者的な立場で提供しようとはじめたもので、既に一千名を超える人たちが受講している。最新のITのトレンドを、「俯瞰的であること、物語として理解できること、わかりやすく図解して示すこと」をモットーに講義している。
しかし、このような説明は、なにもIT企業の人たちだけに役立つものではない。経営や事業の現場にいる人、学生や新入社員など、最新ITの常識を学ぶ機会の無かったひとにも学んで欲しい。それは、ビジネスの現場にこそ、ITの価値を引き出す知恵があるからだ。
しかし、それをわかりやすく、体系的に、俯瞰的に紹介している読み物がない。ならば、ITソリューション塾でやってきたことを活かして、そんな本を作ってしまおうとこの本は出来上がった。
「知識を定着させる最良の方法は、その知識を使うこと」
私はそう思っている。だから、ITソリューション塾でも講義で使ったパワーポイントは、全てご自由にお使い下さいと受講者に提供している。本書も同様の主旨で、図表のパワーポイントをロイヤリティ・フリーで提供している。あまり類を見ないやり方だと言われたりもするが、ITソリューション塾では続けてきたことだけに、自然な思いつきだった。しかし、書籍の販売数の割には、ダウンロードをしてくれた人が少ないのは残念だ。
「ITは難しいもの」という思い込みを少しでもなくしたい。そんな想いで書き上げた本書だ。もし、そう思っている方が、お読みいだければ、きっとその意味をご理解頂けるだろう。また、ITの最前線で活躍されている方も、自分達が接するITのキーワードが、物語としてつながるはずだ。そんなことにも役立てて頂ければと願っている。
おかげさまで、発売1ヶ月ほどで重版となった。新入社員研修のテキストや課題図書として採用頂く企業も増えていると聞く。想いがカタチになった。本当にありがたい。
こんな方に読んでいただきたい!
- IT部門ではないけれど、ITの最新トレンドを自分の業務や事業戦略・施策に活かしたい。
- IT企業に勤めているが、テクノロジーやビジネスの最新動向が体系的に把握できていない。
- IT企業に就職したが、現場の第一線でどんな言葉が使われているのか知っておきたい。
- 自分の担当する専門分野は分かっているが、世間の動向と自分の専門との関係が見えていない。
- 就職活動中だが、面接でも役立つITの常識を知識として身につけておきたい。
「【図解】コレ1枚で分かる最新ITトレンド」に掲載されている100枚を越える図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。自分の勉強のため、提案書や勉強会の素材として、ご使用下さい。
目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン
【最新版に改訂しました】新入社員のための研修教材
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【閲覧無料】最新のITトレンドとビジネス戦略・2015年2月版
「最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年2月版】」全279ページをリリースしました。全て無料で閲覧できます。
今版は、特に相当に気合い入れてテクノロジー編を大幅改訂です。「IoTとビッグデータ」と「スマートマシン」をいろいろと手直しをしました。
テクノロジー編(228ページ)で、特にご覧いだきたいポイントは、次のページです。
- WebスケールITについて解説。
- クラウドサービス事業者のポジショニング。
- クラウドサービス事業者の強みと機会。
- コンバージド・システムとハイパー・コンバージド・システムの比較。
- IoTとビッグデータ」とCyber-Physical systemsとの関係。
ビジネス戦略編(51ページ)では、SI事業者の課題とそれに対処する戦略を新たな考察を踏まえ刷新いたしました。
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